研究課題/領域番号 |
25820041
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
田口 智清 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 助教 (90448168)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | マグナス力 / 希薄気体効果 / ボルツマン方程式 / 漸近接続 / 抵抗 / エアロゾル / 微小球形粒子 / 一般すべり流理論 |
研究概要 |
微小な球形粒子が気体中を回転しながらゆっくりと定常運動するとき,球には抵抗とともに回転軸に垂直な力(マグナス力)が働く.既往研究により,マグナス力の向きが,「系の微小化の効果」(あるいは「気体の希薄化の効果」)の大小の両極限で異なることがわかっている.本研究では,「系の微小化の効果」が有限の大きさの場合に対して球に働く力を求める新しい解析手法を開発することにより,マグナス力の反転現象に対する理解を進める. 初年度はまず,立案時に提案した解析手法の妥当性を検証するため,無回転状態における球まわりの流れの解析を行った.ここでの目的は,非線形性の無視できない系に適用可能な新たな解析手法を確立することで,既存の線形解析の結果を包むより一般性の高い理論を構築することである.解析の結果,理論を矛盾なく構築できただけでなく,球の抵抗に対する簡便な表式を導出することに成功した.得られた抵抗則は,既存の線形理論による抵抗に対する(マッハ数に関する)高次補正を与えるもので,学術的にも価値が高い.抵抗則は微小化の度合いを表すパラメータ(クヌーセン数)に依存する関数を含み,これは所定の線形問題を解くことにより数値的に構築される.現在,この問題の解析を進めているところである.無回転の場合における球の抵抗が理論的に求まったことで,提案手法の有効性が確認され,次年度以降行う回転球の場合の解析に対する見通しが得られた. また,本問題に関連して,レイノルズ数が小さい流れを流体力学的に記述する一般理論を構築した.より具体的には,任意の滑らかな形状を持つ境界まわりの遅い(定常)流れに対する流体力学的方程式系および境界条件の組を導出した(すべり流理論の拡充).この理論を用いることで,微小化の効果が小さい低レイノルズ数流れの解析を効率よくかつ精密に行うことが可能になり,今後,現象のより深い理解につながると期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
静止球を過ぎる遅い流れに対して,微小化の効果が有限の場合に適用可能な一般的な理論を構築することに成功している.また,この理論を適用することにより,球に対する抵抗の表現(抵抗則)を導いた.解析的考察は一般の分子模型に対して行ったことで,当初の計画よりも一般性の高い理論を構築することができている.以上を鑑み,計画通りに進行していると判断される.最後に,本問題から派生して低レイノルズ数流れに対する一般すべり流理論の拡充を行っていることを付け加える.
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今後の研究の推進方策 |
初年度の実績を受けて,次のように研究を推進する.1.初年度の研究で得られた理論的成果をまとめ,流体力学に関する国際学術誌に論文を投稿する.また,複数の国際会議での発表が決まっている.2.研究計画に従い,回転球の場合の解析に着手する.3.初年度に構築したすべり流理論を適用することにより,「系の微小化の効果」が小さい場合に対する球まわりの流れの様子を調べる.これはレイノルズ数が小さい巨視的な系で,従来の流体力学(ナビエ・ストークス方程式と粘着条件からなる系)では認識されていない効果(希薄気体流効果)が現れることを示すことを狙うものである.
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