微小な球形粒子が気体中を回転しながらゆっくりと運動するとき,球には抵抗とともに揚力(マグナス力)が働く.既往研究により,揚力の向きが,「系の微小化の効果」の大小の両極限で異なることがわかっている(逆マグナス効果).本研究では,マグナス力の反転現象の解明を目指し,微小化の効果が任意となる状況下で球に働く力を精密に計算する解析手法の構築を進めた. 前年度までは球が回転していない場合の解析を行い,ボルツマン方程式の漸近接続理論を構築するとともに,(既存の結果を深化拡張する形で)球の抵抗則を導出した.最終年度ではこれまで構築した手法を用いることで,回転球の場合の解析を行った. 当初の計画では回転軸が一様流に垂直な場合の解析を先ず行い,後にそれを一般化するとしていたが,ボルツマン方程式の相似解を見出したことで,一足飛びに一般の回転軸の場合の解析を行った(解析の効率化). 解析の結果,抵抗に関しては,球の回転が影響を与えないことがまず明らかとなった.一方揚力に関しても,揚力を与える公式を新たに導出することに成功した.この公式では,回転軸の向きによる揚力の変化に関しては陽な表現が得られている.一方,微小化効果の影響に関しては,公式に含まれる高々1つの関数(揚力関数)の構築に帰着できる.この目的のためには線形化ボルツマン方程式の所定の非斉次定常境界値問題を数値的に解けばよい. 実際の数値計算に際しては一層の効率化を進めた.つまり,静止球まわりの一様流の問題の解(これは前年度までに計算済)と,静止気体中で回転する球まわりの流れの問題の解(今回計算)から,揚力関数を求める生成公式を見出し,これを用いることで(ボルツマン方程式の簡易モデルに基づいて)揚力関数の具体的な数値を得ることに成功した.その結果,球の大きさが小さくなると揚力の向きが反転することを理論的に示し,その臨界値を突き止めることに成功した.
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