ループ管型の熱音響エンジンにおいて,進行波を含む自励振動が発生するメカニズムを明らかにするため,従来,臨界温度比を低く抑える目的で管内に挿入され,伝熱促進以外の影響について余り議論されてこなかったスタックの空隙率等に着目して,境界層理論を応用した準1次元モデルによる数値シミュレーションを実施した. まず,スタックの挿入に起因する局所的な空隙率の低下と,定在波・進行波を問わない自励振動そのものの発生を決定付ける臨界温度比との関係を明らかにした.これにより,これまで慣習的に用いられてきた水力半径に対する境界層の代表厚さの比であるいわゆるωτだけでなく,スタックの空隙率,空隙率を決定付ける壁厚やセル数等が,臨界曲線の特定に重要であることが分かった.また,先行実験との比較から,我々の準一次元モデルの適用範囲が非常に広く,上述のωτが2付近まで有効であることが分かり,各臨界曲線における最低温度比付近まで境界層理論が有効であることが示された意義は非常に大きい. これを受け,本年度は,重要性が明らかとなった空隙率,壁厚やセル数と進行波の関係について詳細に調べた.数値シミュレーションを実施した結果,本モデルが有効ないわゆる右の分枝における進行波の発生には,壁厚が一定の場合は空隙率が小さい程,空隙率が一定の場合は壁厚が薄い程,有利であることが明らかになった.しかしながら,空隙率0.5辺りを境として,より低い空隙率に対しては,これらの傾向が反転することも明らかになった.一方,セル数が一定の場合,進行波の発生に有利な条件は空隙率0.3~0.4となり,臨界温度比が低くなる空隙率0.4~0.6と必ずしも一致しないことが明らかになった.この様に,非線形性とは無関係に進行波の発生に有利な条件が明らかになった意義は大きい.非線形性と進行波の関係については,導入した実験的手法と合わせて,引き続き研究を進める.
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