非定常な蒸発・凝縮現象は,工学上重要な物理現象のひとつである.気液界面から遠く離れた気体中において,蒸発・凝縮による気体の流れ,すなわち,蒸発・凝縮流れが誘起される.蒸発・凝縮流れは,界面の状態(界面表面温度・飽和蒸気密度等)や遠方の気体の巨視的物理量(密度・温度等)に依存し,それらが特定の関係を満たす場合に実現される.この関係は,流体力学の領域に対する境界条件を与えることから,個々の流体力学の問題を解く上で,基礎的かつ本質的に重要な知見となる.非定常な弱い蒸発・凝縮流れを実現させる界面および無限遠との状態をつなぐ特定の関係を見出す方法を確立し,これをもって流体工学の基礎と応用への貢献を目指すことが本研究の目的である. 平成27年度においては,平成26年度に完成された気液界面において非定常な(時間周期的な)弱い蒸発・凝縮をともなう多原子分子気体版ES-BGK Boltzmann方程式の半無限境界値問題を数値的に解くための方法を用い,工学の応用上重要な水・メタノール等多原子分子気体に関して大規模な数値解析および Sh→0 の漸近的振る舞いの解析を行い次の知見を得た.(1)非定常な流れの効果の大きさの尺度を表すStrouhal数Shの増加にともない,界面における質量流束と界面の速度の位相・振幅のずれは増加していく.(2)界面の速度が0から正(負)の速度となる時,Sh=0の場合,すなわち,定常な流れの場合は瞬時に凝縮(蒸発)が生じるが,Sh≠0の場合は蒸発・凝縮が瞬時に切り替わらない.
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