低摩擦性を持つ生体高分子表面上の壁面せん断応力を非侵襲で計測する手法として,生体表面上の流れを直接計測することでせん断力を計測・評価する手法を提案した.従来法とは異なり力学センサを必要としない新たな壁面せん断力手法を開発したことにより,様々な表面状態によってもその表面上のせん断力計測を可能とし,その成果については計測関する国際誌に掲載されている.また,表面における壁面せん断応力は,生体高分子表面における分子鎖間隙に深く関連し,本研究期間においてその分子鎖間隙と摩擦低減率について定量的に評価し,本研究目的に相当する優れた生体材料開発への評価項目として確立した. 本年度ではさらに,分子鎖間隙に囲われた内部の水の挙動について,蛍光標識剤を使用し,分子スケールでの物質拡散および移動の計測を行った.分子鎖間隙内での物質拡散の定量的計測手法としては,表面近傍の速度場計測装置を応用し,独自の濃度勾配計測手法を構築し,国内における学会で発表している.本研究成果については現在論文執筆中であり,国際誌への投稿を予定している.また,分子鎖間隙内での物質移動に関しても,高分子-水界面において多孔質様流れ場が形成していることを明らかとなり,生体高分子内での界面近傍内部の流動により,表面の摩擦抵抗低減を示唆する力学的メカニズムとして知見が得られ,現在論文投稿を予定している. 以上より,本年度では生体材料を構成する生体高分子表面における摩擦の定量評価手法の開発と,その摩擦の低減メカニズムに関わる高分子内部の物質拡散と物質移動について定量評価を行った.実施予定よりも順調に研究が推進されて,分子スケールの物質移動計測法を開発できたことより,さらに本研究に関わる内容の力学知見が深まったことが最大の成果と考えられる.
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