細胞内凍結の発生は細胞に致命的な凍結損傷を与えると考えられている.細胞をシート状に単層培養した場合には,IIFが不規則に発生するだけでなく,細胞間を介して伝播していく様子が観察されている.このようなIIFの伝播は血管内皮細胞でも認められている.血管を有する生体組織をバルクで凍結解凍するのが困難なのは,この血管内皮細胞におけるIIFの伝播と凍結耐性の低さが原因とされている. そこで我々は,細胞間結合の1 つであるギャップ結合を介した物質輸送に着目し,この結合を阻害することによって細胞内凍結の伝播の抑制と凍結耐性の向上を図ることを試みた. 5 K/minの緩慢な冷却条件では,Control群,ギャップ結合を阻害したBlocked群のいずれも細胞内凍結の発生がほとんど認められなかった. 一方,25 K/min 以上の比較的急速な冷却条件では,両群で細胞内凍結の発生が観察された.Calcein とPI を用いた染色像から,いずれの冷却速度においてもControl群に比べてBlocked群で生細胞数が非常に少ないことが分かった.凍結実験の動画解析およびIIF発生率の比較から,細胞間結合の一種であるギャップ結合をヘプタノールで阻害することで隣接する細胞へのIIF伝播を抑制できることが明らかになった.これは,ギャップ結合がIIFの伝播経路になっている可能性を示唆している. 我々は,細胞にとって致命的と言われているIIFがギャップ結合を介して伝播すると考え,ギャップ結合の可逆的阻害を行うことで凍結・解凍後の細胞生存率の向上に繋がることを期待し実験を行ってきた.予想通り,ギャップ結合を阻害することでIIFの伝播パターンが変わり,IIFの細胞間伝播を抑制させることが可能になった.しかしながら,ギャップ結合の働きを阻害したBlocked群では,細胞の生存率は期待に反して著しく低下する結果が得られた.
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