高分子製品は日常の様々な場面で用いられており、その設計や加工は恒常的に行われている。しかしながら、現象の時間スケールの幅広さ(ナノ秒~分)や機能の化学種依存性など、非常に複雑な物理像をもつため、予測的な材料設計は困難である。本研究は、分子動力学(MD)シミュレーションを起点とした高分子物性予測を目指し、(1)新規相互作用計算手法の開発によるMDシミュレーションの高速化、(2)MDシミュレーションとLangevin Dynamics (LD)シミュレーションとの相互接続による探索可能な現象スケールの増大を主眼に置き、平成25年度から平成27年度にかけて進められた。 平成25年度は主に(1)に取り組んだ。中でも、報告者が独自に開発した新規相互作用計算手法であるLinear-combination-based Isotropic Periodic Sum (LIPS)法に改良を加えたLIPS-SW法は、これまでにない高精度と高速化容易なプログラム構造を両立した。 平成26年度は(1)および(2)に取り組んだ。特に、LIPS-SW法により高速化されたMDシミュレーションを用いて、巨大分子系のモデル系のひとつであるバルク液晶系の解析を行った。結果はLIPS-SW法が巨大分子系においても十分な計算速度と精度を両立することを示した。鎖状高分子系におけるMDとLDとの相互接続についても検討を行った。 平成27年度も引き続き(1)および(2)に取り組んだ。液晶分子系のシミュレーションにおけるLIPS-SW法の精度評価を緻密に行い、現状で最も高い精度を持つ既存手法と同等の精度をもつことを確認した(注:LIPS-SW法は既存手法と比べて高速化が容易である)。また鎖状高分子系におけるMDとLDとの相互接続法を提案した。
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