本研究では,生体組織のような柔軟物の硬さを計測するために,柔軟物を1次元の多自由度集中系にモデル化し,押込み試験および加振応答を用いて柔軟物のヤング率を計測する方法を提案してきた.本年度は,実際の生体軟組織における計測可能性を検証した. 昨年度までの研究では,固定壁で囲まれた弾性体の弾性論を参考にして,柔軟物を質量・結合ばね・基礎支持ばねで構成される1次元の集中系にモデル化した.そして,押込試験時の接触子にかかる力・変位の計測結果と集中系モデルの解析結果が一致するようにヤング率を同定する手法を提案した.さらに,シリコンのヤング率測定を行い,レオメータの測定結果と比較して提案手法の妥当性を確認した.しかしながら,解析モデルでは固定壁で囲まれている仮定があるものの,実際の生体の軟組織は固定壁で囲まれてはいないため,正確な測定ができない懸念があった.ただし,測定する軟組織にある程度の大きさがあれば,軟組織周囲の境界条件の影響は受けないはずであるため,ヤング率を正確に測定するにはどの程度の軟組織の大きさがあればよいかを検討した.その結果,軟組織の深さによって必要な大きさは異なるが,軟組織の深さが30mmの場合,半径35mm程度の表面積が必要であることが分かった.人体各部の軟組織で検討したところ,腕の筋肉,腹部,乳房など測定が必要な各部で測定可能であること確認した. また,腕の筋肉部分の硬さ測定を行い,力を入れたときと入れていないときにヤング率の違いが出ることを確認した.さらに,触診指導用の乳がん模型の各部を測定し,しこりが有る部分と無い部分で測定したヤング率が異なることを確認し,乳がん検診の可能性を確認した.以上より,高価な機器を用いることなく,接触子を手で押すだけで,容易に柔軟物のヤング率の計測手法を提案し,人体の軟組織においても十分に測定可能であることを確認した.
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