研究課題/領域番号 |
25820112
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
魏 秀欽 福岡大学, 工学部, 助教 (80632009)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 電力発振器 / 周波数安定化 / 高効率化 / 低コスト / 注入同期 / RF電源 / 高周波数大電力 / 位相縮約アプローチ |
研究概要 |
本研究では、高周波数電力発振器に対し、周波数安定化・高効率化を低コストで実現する回路技術を提案する。自励式電力発振器の周波数安定化のために注入同期理論を用いることを基本コンセプトとする。さらに注入信号に電力発振器のスイッチ素子に生じる損失を削減するための回路設計技術を融合することにより、高効率化を実現する。本技術が確立されると、周波数安定化を実現しつつスイッチに対する負荷を大きく低減することができるため、安価な半導体素子を用いることができ、結果として回路の実装コスト削減も達成できる。本研究では、注入同期発振器に対し周波数安定化および高効率化を達成するための理論を構築し、そのうえでRF電源への応用を意図した高周波数大電力発振器の開発を行う。 本年度は注入同期電力発振器について、位相縮約アプローチに基づいた発振器の位相記述法を確立し、その周波数安定化、電力変換効率を両立するための基礎理論を構築した。注入同期電力発振器をモデル化し、パワーエレクトロニクス分野の回路解析に物理分野で発展している位相縮約アプローチを適用し、そのうえで回路設計技術を再構築することができた。構築した理論を用いて、最適な注入方法を理論的に明らかにした。さらに、位相記述から導出された最適な注入方法を電力発振器に適用し、設計仕様のもとで、回路実験を行った。その結果、周波数の安定化と電力変換効率の向上を同時に達成することを示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成25年度は位相縮約アプローチを用いた安定化理論を構築し、高効率電流注入技術と融合させることが主要課題であった。 まず、注入同期電力発振器の位相記述を行い、安定化のための基礎理論を構築した。実際に位相記述による同期解析技術を用いてE級発振器の安定化解析を進めた。位相縮約アプローチを用い、そのうえで回路設計技術として、その理論を再構築した。位相縮約アプローチを用いることにより、注入信号の安定化解析が容易になることが明らかになった。次に、注入同期高効率電力発振器についての具体的な回路を提案した。位相縮約理論から明らかにしたサイエンスの立場からの注入条件を満足させつつ、注入回路の実装コストなど、エンジニアリングの側面からの制約条件も考慮した注入同期型E級発振器を設計した。具現化される注入回路設計のアイディアによる発振器の周波数安定化、高効率化、さらには低コスト化について理論・回路実験の両面からの評価を行った。その結果、位相縮約アプローチを用いた安定化理論と高効率電流注入技術を融合することにより、電力発振器の周波数の安定化を達成した。そのうえで、構築した理論に基づきRF電源アプリケーションを意識した高効率大電力発振器の開発に25年度中から着手することができた。本研究は平成26年度と平成27年度で継続して進める研究課題となる。
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今後の研究の推進方策 |
現在、RF電源のほとんどで、B級、C級などの線形増幅器が採用されている。線形増幅器は本質的に電力損失が多くエネルギーを無駄にする上、大量の発熱を逃すための放熱設備が必要となり大型化するという問題点がある。そこで、平成26年度以降ではRF電源向け注入同期高効率電力発振器を開発する。 平成26年度は無線電力伝送の送信段としてのRF電源を開発する。平成25年度で構築した理論を用いて回路を設計する。スイッチ素子へのストレスに注意しながら、電力変換効率とコストの最適化をはかり、素子の選定を行う。そのうえで設計に基づき回路実験を行い、安定性、電力変換効率などの基礎データを測定する。ここでは、スイッチング損失を最小化する条件が達成できるかに注意し、波形を測定する。本フェーズは申請者のこれまでの開発経験から考えると、比較的開発しやすい設計仕様といえる。したがって、本フェーズで開発されるRF電源は注入同期高効率発振器の特性を評価するためのテストベッドとしての意味合いも持つ。 無線電力伝送システムにおいて求められる特徴として、高調波歪率(Total Harmonic Distortion)の低減が求められる。そこで、本システムではPush-pull構造を有した注入同期電力発振器を開発する。Push-pull構造を導入することで低高調波歪率を達成することだけでなく、高電力化にも貢献できる。申請者はPush-pull構築を有した電力増幅器の開発経験があり、その知見を用いることにより、効率よく開発することができる。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では数多くの回路を試作し、測定する必要がある。その際、基板設計も特性改善のため重要な要素であり、高効率的に回路を実装するため、平成25年度は基板加工機を購入したが、基板加工機が当初予定より安価に購入できた。また、実験が想定よりトラブルなく進み、予定より実験素子の購入が安価に抑えられた。 平成26年度は、無線電力伝送の送信段としてのRF電源の開発が主な研究課題となるため、高電力に対応した直流安定化電源を購入する予定である。また、回路素子などの実験消耗品に使用する計画である。さらに、平成25年度の研究成果公表のための旅費、論文誌投稿料などにも適宜使用する。旅費に関しては、現在、国際会議と国内の研究会に1回ずつ出席する予定である。
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