研究課題/領域番号 |
25820117
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人電子航法研究所 |
研究代表者 |
本田 純一 独立行政法人電子航法研究所, その他部局等, 研究員 (10643348)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 航空機監視 / 電波伝搬 / 散乱波 / レイトレーシング法 / レーダ / マルチラテレーション / 高速計算 |
研究概要 |
初年度にあたる平成25年度は、数値計算アルゴリズムの基本設計までを完了し、得られた数値結果と実験結果を比較することによって、提案手法の妥当性を検証した。本研究課題となる航空監視における電波伝搬解析のための数値計算アルゴリズムの開発では、レイトレーシング法を用いて2つの視点から研究を進めている。一つは、航空機の反射信号を利用した一次レーダ応用技術のため広域における航空機からの散乱電力推定アルゴリズムを開発することである。二つ目は、空港内を走行する航空機を監視するためのマルチラテレーション等で問題となっているマルチパス問題について数値解析ができるアルゴリズムの開発を進めることである。 前者については、簡易な航空機モデルを作成し、通常では解析しないような50km×20kmの超広域における散乱電力の数値計算を行った。この計算モデルについては、平成25年に東京タワーから放射される電波を利用して航空機からの反射電力がどの程度であるかを測定し、数値計算結果と比較した。その結果、提案手法は概ね良好な結果を示すことを確認した。本結果については査読論文に投稿し、採択された。後者の空港内の伝搬解析については、三次元のアルゴリズムは未完成であるものの、二元問題についてはほぼ完成しており、開発したアルゴリズムを用いて空港内で問題となる建物からの反射について解析した。大規模空港での実験は行うことが出来なかったが、中規模空港で実施した他の研究テーマの実験結果を元に、受信電力について数値計算結果と比較した。両者の傾向は概ね同様であった。また、計算時間について商用の計算ソフトと比較することによって本提案手法の利点を確認した。比較の結果、通常の半分~8割程度で計算できることがわかり、効率的なアルゴリズムとなりえることを確認した。ただし、詳細な精度検証は今後の課題とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の予定は基本的なアルゴリズムの開発とその検証作業であった。提案手法に基づいたアルゴリズムに沿ってプログラミングを行い、航空機散乱電力推定と空港面電波伝搬特性解析用の2つのプログラミングを行った。 航空機散乱電力推定用のプログラムでは、通常は解析しないような超広域の数値計算を実行し、簡易航空機モデルによる散乱電力を数値計算した。また、開発したアルゴリズムの精度検証のため、東京タワーから放出された電波を用いて、航空機からの散乱電力測定実験を実施した。羽田空港近辺で実施した測定では、実験値は数値計算結果と概ね傾向が一致することが確認された。統計的に考えると実験データが不足していることは否めないが、今後更に精度検証を進める予定である。計算時間等については、商用のソフトを使って検証を行った。まず提案手法で解析するような数百平方キロに及ぶ数値計算が商用ソフトでは解析ができなかった。計算時間については解析範囲を狭めて行った結果、約半分から8割程度で計算できることが分かった。 空港面解析用のアルゴリズム開発では、羽田空港をイメージしたモデルを作成し、プログラミングを行った。三次元計算用についてはエラー等が完全に消えていないため検証作業を行っていないが、二次元問題についてはほぼ完成しており、空港内のマルチパス現象について数値解析を行った。空港内を走行する飛行機の監視に使用されるマルチラテレーションで実際に現れる航跡抜けや測位性能劣化の原因について、滑走路・誘導路周辺の建物からの反射/回折等のマルチパス現象を視覚的に示すことによって、原因究明を図った。 以上のことから基本設計が完了し、その検証作業として実験結果と比較できたことから、概ね予定通りに研究は進行していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
まず空港面の電波伝搬特性を解析するため、三次元解析用のアルゴリズム開発を進める。すでに開発進行中ではあるが、プログラム上にエラー等が見られるため修正を施す必要がある。基本部分が完成した段階で、本提案手法と他の手法を比較し、計算時間がどの程度削減できるかを検証する。次に、中規模空港で伝搬特性の測定実験を実施、もしくは他の研究テーマで得られた結果を解析することで空港内の伝搬特性について調べる。数値計算結果と実験結果を比較することにより、提案手法の精度検証を行う。開発したアルゴリズムによる結果と実験結果が大きく異なる場合は、アルゴリズムの見直しを行い、修正を施す。基本的な理論計算に基づいて作成するプログラムではあるが、実験結果を元に補正値等を考慮していくことを検討する。 空港面の伝搬解析用のプログラミングは、概ね完成した段階で散乱電力推定に使用した航空機モデル等も組み込み、走行する航空機が監視性能にどのような影響が出るのかを数値解析する。計算結果に基づいて、すでに運用中の監視システムの問題点を明らかにし、受信機配置等を含めた問題解決方法について提案する。 一次レーダ関連技術に応用する航空機散乱電力推定のためのアルゴリズムは、移動する航空機からの散乱電力の統計について、航空機の形状、姿勢、速度等の各パラメータを考慮し、地上に設置する受信機側の検出率を算出する。 研究2年目にあたる平成26年度で基礎的なプログラミングは終了し、最終年度となる平成27年度は他の手法との計算時間の比較、実験結果と比較することにより精度の検証を進める予定である。現在の研究のペースで、概ね当初の予定通りの研究成果を出すことが出来ると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
数値計算用に使用するために購入を予定していたコンピュータが、業者経由で購入した際に、当初の予定価格よりも10万円以上安くなった。また、計算補用品として購入したソフトウェアについても予定より安く導入することができたことから、次年度繰越のための資金が発生した。 初年度に購入予定であったアンテナについては購入していない。初年度で実験は行ったものの、周りにあるもので間に合わせたため、費用支出を抑えた。しかし、26年度についてはしっかりと校正された機器にて測定実験を実施するため、アンテナを購入する。前年度で発生した余りの金額については、アンテナを含めた実験および計算機補用品として使用する予定である。
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