本研究期間の最終年度は、カルド樹脂をゲート絶縁膜に用いた塗布型有機薄膜トランジスタ(TFT)をプラスチック基板上に集積し、フレキシブル有機ELディスプレイへ展開することで次世代フレキシブル表示デバイスの実現に向けた基礎研究を行った。研究の成果を以下に示す。
①カルド樹脂をゲート絶縁膜に用いた塗布型有機TFTの基礎評価:塗布型のp型有機半導体を用いて短チャネル(L=5 μm)のボトムゲート/ボトムコンタクト型有機TFTを作製した。前年度の研究で得られた知見に基づいてカルド樹脂の成膜条件と電極のパターニング条件の最適化を行うことでキャリア移動度1~2 cm^2/Vs、電流オンオフ比10^9の高いトランジスタ性能が再現良く得られることを確認した。また、閾値電圧は0 V近傍で伝達特性において電流ヒステリシスが見られなかったことから有機半導体/カルド絶縁膜界面の欠陥が少なく電荷トラップ等の影響も少ないことが示唆された。 ②フレキシブル有機ELディスプレイの試作:①の有機TFTをプラスチックフィルム上に集積し、電極以外はすべて塗布プロセスを用いた有機TFTバックプレーンを作製した。ディスプレイサイズ3.25×3.25 cm、画素数128×3×128、画素密度100 ppiのパターンにおいて有機EL(単色)の駆動発光を行い、静止画やアニメーション等の表示・再生に成功した。駆動周波数を60 Hzから240 Hzに高めても動画の追従性は良く、有機TFTが正常に動作していることを確認した。
本研究より、カルド樹脂が高い平坦性と絶縁性を示すほか、複雑なデバイス作製プロセスにも耐性を有し、有機TFTのゲート絶縁膜、及び、次世代ディスプレイ材料として極めて有望であることが示された。これは、将来の低コストなプリンテッドエレクトロニクスを実現するための先端電気電子材料として重要な成果である。
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