研究課題/領域番号 |
25820125
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
石河 泰明 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 准教授 (70581130)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 酸化物半導体 / 薄膜トランジスタ / 塗布 / OHラジカル |
研究概要 |
当研究は、塗布型InZnOによる薄膜トランジスタ(TFT)の高性能化を実現する新規作製手法を提案・実証するものである。これまで酸素ラジカル照射を行うことで、InZnO内に含まれる炭素不純物低減に成功し、結果として、TFT特性改善を実現してきた。酸化力がさらに強いOHラジカルを導入することでより炭素不純物量を低減しTFT特性改善を試みるのが当研究の目的の一つである。そこで、現保有酸素ラジカル照射装置を改良し、OHラジカル照射機構作製を試みた。研究当初の予定では2013年度前期で装置完成であったが、装置本体にあるUV照射機構の故障により2013年度後期末まで開発が遅れた。 一方、材料改良・作製プロセス改善を同時に進めTFT特性改善も試みた。InZnO塗布材料改良(炭素量低減を実現する溶媒変更など)及び塗布条件改良、TFTの作製プロセスの調整を行い、2013年度目標の電界効果移動度20cm2/Vsに到達した。これは、塗布型InZnO-TFTでの世界最高値である。 InZnOとゲート絶縁膜界面を光電子分光法で評価したところ、材料・プロセス最適化を行うことで炭素-酸素結合に起因するピークが減少した。また2次イオン質量分析法により炭素不純物量を調査したところ、材料改良により1/10に炭素量が低減できていた。これら分析により、材料改良によって効果的に炭素不純物量の減少が実現できていることが判明した。また、より高い移動度を実現するには、含有水素量低減が重要になることが示唆される結果も得られた。 InZnO焼成温度については、300度が最適値であった。OHラジカル照射により低温化を今後進めてゆく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初2013年度前期中に完成を予定していたOHラジカル照射装置開発が2013年度後期末に伸びてしまった。しかし、同時に材料の改良(有機溶媒の水系溶媒への変更など)、作製プロセスの見直しを進めることで、2013年度の目標であった電界効果移動度20cm2/Vsに到達した(実績値:25.1cm2/Vs)。この値は塗布型InZnO-TFTでは世界最高値である。 光電子分光法による炭素ー酸素結合の低減、2次イオン質量分析法による炭素濃度の低減が確認されるなど、材料・作製プロセスの改良により目標達成がされた。今後、作製完了したOHラジカル照射法の効果により更に特性改善が見込まれ、より高い特性が期待できる状況である。 装置自体は稼働しているため、2014年度予定しているInZnO/金属電極界面への影響及びその解析、OHラジカル照射による焼成温度低減は順調に進むものと期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
OHラジカル照射装置の作製は完了したため、OHラジカル照射がTFT特性へ与える影響を確認する研究を進められる状態にある。OHラジカル照射実験を通して、InZnO膜中の炭素量解析や炭素-酸素結合状態解析を行い、OHラジカル処理効果を検証する。InZnO膜の焼成温度低減を実現していく。それらの結果としてInZnO-TFTの電気的特性を確認し、当新規手法の有効性を検証してゆく。 All-printed TFT実現に向けて、塗布型InZnOと塗布型金属電極の界面制御及び解析が今後の大きな課題となる。特に塗布型電極は利用できる材料(Ag, Al, Cu)が従来利用されている真空プロセスによる電極材料(Ti, Mo)と大きく異なる。また、酸化物半導体と接触することにより、Agは界面部分はAgOに変質することがこれまでの我々の研究で示唆されている。AgOは高抵抗材料なため、良好な電極コンタクトを実現するためには、デバイス構造・プロセスだけでなく、酸化後の材料物性を含めて検討していかなければならない。光電子分光法、2次元イオン質量分析法だけでなく、透過型電子顕微鏡観察、原子間力顕微鏡により断面観察を行い、電極・半導体界面がTFT特性に与える影響をモデル化してゆく。
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