本年度は,研究計画に記載した通り,異なる寸法の信号線上に配置した磁性膜内でそれぞれが同一の共鳴周波数を持つような磁性膜の設計法を電磁界解析を用いて考察した.その結果,共鳴周波数の導出に必要となる磁性膜内に生じる反磁界の大きさを求めるためには,共鳴周波数帯域付近における磁性膜内の磁界の位相情報を考慮して特性長を導出する必要があることを明らかにした.この特性長から導出した反磁界をKittelの方程式の異方性磁界の増加分として与えることで,寸法の異なる様々な配線上に製膜した磁性体において帯域通過フィルタの帯域通過周波数を導出可能であること,即ち寸法の異なる様々な配線上に製膜した磁性体の帯域通過周波数が設計可能であることを明らかにした.この結果は,本研究課題で提案する磁性膜を用いた帯域通過フィルタに限らず,磁性体を用いた電磁ノイズ抑制体をはじめとして,共鳴周波数領域で用いる磁気デバイス全てに応用可能な結果であり,高周波デバイスの進展に寄与する. 以上により,磁性膜を用いた帯域通過フィルタの設計指針に関わる磁束の通過量,通過周波数帯域,遮断量は,磁性体と配線の寸法及びそれぞれの位置関係,ならびに磁性体の材料特性から磁性体に生じる反磁界を導出し,反磁界によりシフトした透磁率と近傍界に適応したシェルクノフの式を用いて誤差2 dB以内,通過周波数の中心周波数は5%以内の精度で導出可能であることを示した. 以上により,磁性膜が,暗号および復号化デバイスを狙った非接触あるいは非破壊のサイドチャネル攻撃への物理的な対抗手段となることを示すとともに,その設計指針を提示することができた.
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