研究課題/領域番号 |
25820135
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
本多 周太 筑波大学, 数理物質系, 助教 (00402553)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 純スピン流 / スピン偏極伝導 / マイクロマグネティクス / 高速磁化反転 |
研究実績の概要 |
強磁性体中の磁化の新しい反転機構として,純スピン流注入磁化反転が注目されている。磁化を高速,低電圧,高確率に制御することが,磁化反転に望まれている。 本年は,独自に開発した磁化ダイナミクスシミュレーターを用いて,微小な磁性体における磁化反転特性の検証を行なった。このシミュレーターは,LL方程式に純スピン流によるスピントランスファートルクの項を加えた方程式に基づいて作製された。シミュレーションの結果,磁性体へ純スピン流を注入する面によって,磁化の反転速度に影響が出ることが明らかとなり,高効率に磁化を制御出来る純スピン注入を提案した。 さらに,純スピン流注入方法の新機構による高速磁化反転を提案検証した。磁性体へ注入される純スピン流のスピン偏極の向きを時間変調させることにより,高速に磁化制御可能であることや,時間変調させる機構を提案した。 また,純スピン流で磁化を高効率に制御することには,純スピン流注入磁化反転の高効率化だけではなく,大きな純スピン流をターゲットの強磁性体へ運ぶことも重要となる。今回,スピンの伝導部分として,グラフェンに着目した。グラフェンはスピン拡散長が長いことが知られており,前年度に開発した表面グリーン関数計算の高精度化の手法などを用いて,グラフェンナノリボンにおける電子状態・伝導計算を行なったところ,純スピン流に適した伝導素子となりうることを明らかとした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目標は”純スピン流注入法による磁化制御の検証”と”純スピン流注入を応用した機構の提案”であった。交付者が独自に開発した純スピン流によるスピントランスファートルクの効果を取り入れたマイクロマグネティクスシミュレーターを用いて,ナノサイズの微小な磁性体における磁化反転の特性を検証した。スピン注入磁化反転では,注入されたスピンのトルクが磁性体の磁化の向きを変化させる。微小サイズの磁性体においては,磁性体中の磁化の向きは,場所に寄らず一様に回転すると考えられてきた。しかし,磁化の向きは一様から僅かにずれているため,純スピン流が注入される面の違いで,反転速度に違いが生じることを明らかとした。さらに,純スピン流注入方法の新機構による高速磁化反転を提案した。また,スピン拡散長が長いグラフェンナノリボンを用いることで,スピン流の生成・伝導が起こることを,前年度に開発した高精度な表面グリーン関数の計算法を用いて量子力学に基づいた伝導計算により示した。これらの成果は,本年度の目標を達成したと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は,純スピン流の伝導部分と純スピン流注入磁化反転部分を連携させて,より詳細な純スピン流磁化反転機構を調べる。これまで,磁化ダイナミクスシミュレーターでは,伝導部分は,パラメーターとし取り入れられていた。これらの連携が可能になれば,より現実的な解析が可能となる。伝導部分は量子伝導計算や,拡散伝導シミュレーションを用いる予定である。拡散伝導によるスピンの流れについても,導線の形状やターゲット磁性体の接合などにより,大きく変化すると考えられており,それらを具体的に計算し,より高効率に磁化を制御可能な方法を提案する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題である純スピン流注入磁化反転のシミュレーションは,高性能なビデオカードを用いたGPU演算を利用することで,シミュレーション速度が飛躍的に向上することが期待される。GPUを用いることで,数千並列の計算が可能になるからである。現在,この演算を可能にするようシミュレーターを改良中である。次年度のほうが,より高性能なGPUを購入できるため,当該年度の購入を見送り,次年度に購入を当てることにした。
|
次年度使用額の使用計画 |
GPUを用いた並列化計算により,高速なシミュレーションが可能となる。高性能なGPUを複数台と,それを導入可能な計算機,それに対応したプログラミング言語のコンパイラを購入する予定である。
|