研究課題/領域番号 |
25820138
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
山口 裕資 福井大学, 遠赤外領域開発研究センター, 特命助教 (10466675)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ジャイロトロン / テラヘルツ / マグネトロン入射型電子銃 / ラミナー流 / 協同トムソン散乱 / ポジトロニウム |
研究概要 |
高周波ジャイロトロンの性能は,共振器へ入射する電子ビームの質に依存する.電子ビームの高品質化(特に,速度ピッチ因子の増大,速度分散の低減)には,電荷が局所集中しない層状流(ラミナー電子流)の形成が必要となる.本研究では,数値計算に基づくラミナー電子流の形成機構の解明,及び電子銃の最適設計手法の構築を目指す. 核融合プラズマの協同トムソン散乱計測用の光源として開発中の,300 GHz 帯,200 kW 級のパルスジャイロトロンへ搭載する,三極マグネトロン入射型電子銃を開発した.電子軌道解析コード(EGUN)を導入し,ラミナー電子流の実現に必要となる電極形状を模索した.特に,最適化の過程で見出したラミナー性の高い配位と低い配位を比較し,電子ビーム内の静電ポテンシャル分布とラミナー性の関係に着目した.その結果,高ラミナー流を与えるポテンシャル分布では,半径方向内側の軌道にある電子へ追付く様に外側の軌道の電子が加速され,ビーム断面内で軌道間の旋回位相の差が小さくなる事が判明した.また,当該ポテンシャルの調整は,カソードと第一アノードの二つの電極のみで可能である事もわかった.EGUN による電子ビーム解析の結果を,計算手法の異なるコード(EPOS)により求めた結果と比較し,その妥当性を確認した(EPOS 開発者,V. N. Manuilov 氏との共同研究). 以上の知見に基づき,電圧 65 kV,電流 10 A 以上,速度ピッチ因子 1.2 以上,速度拡がり 5% 未満となる電子ビームを設計し,実機に適用した.製作したジャイロトロンの動作試験を行い,電子ビーム電圧 65 kV,電流 11 A,速度ピッチ因子 1.2 となる設定において,発振周波数 294 GHz,最高出力 234 kW を達成した.発振効率は 30% を超えており,低周波数帯の高出力管に比肩する性能を実現している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の重要課題の一つは,ラミナー電子流の形成機構を解明することである.ラミナー性の良い電子流が生成される配位では,各軌道上の電子がそれぞれ異なる加速を受け,ビームの進行に伴い,磁力線に垂直な断面内で旋回位相が揃っていく事がわかった.また,ラミナー性の向上をもたらす静電ポテンシャル分布が,どの様な電極形状によって形成されるのかを明らかとした.この知見は,あらゆるジャイロトロンの電子銃設計に応用可能であり,ラミナー性を向上させる為に電極形状をどの様に調整すべきかの指標を与える. 設計した電子銃を,開発中の 300 GHz 高出力パルスジャイロトロンへ搭載し,目標としていた発振性能を実現している.当該ジャイロトロンの発振効率 30% 以上は,電子ビームが充分に低分散でなければ達成できない値であり,設計概念の妥当性を示す結果であるといえる. 現在,ポジトロニウムの超微細構造計測への適用が可能な,200 GHz 高出力管に搭載する専用電子銃の開発を行っている.電子銃の製作は順調に進捗しており,当初の計画通りに,ジャイロトロンの動作実験に入る.加えて,多目的応用を目指した 162 GHz ~ 265 GHz 多周波数発振管へ搭載する,広帯域動作可能な電子銃の開発も進める予定である.
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今後の研究の推進方策 |
当初の実施計画に従い,研究を進める.これまでのジャイロトロン動作実験において,電子銃の取付精度や超伝導マグネットに対する発振管の配置精度も,発振効率へ大きな影響を与える事がわかった.200 GHz 高出力管の組立て,超伝導マグネットへの配置に際しては,それらの精度を確保する為に専用の治具を製作する.動作実験では,発振周波数の計測,モード競合の有無の確認,発振出力の計測を行う.実験結果と計算結果を比較し,電子銃の性能を評価する. 並行して,周波数の異なる複数の共振器モードで発振可能な162 GHz ~ 265 GHz 多周波数発振管の実現を目指した,新しい電子銃の開発を進める.この発振管では,9.7 T ~ 5.6 T の範囲で共振器磁場を変化させる為,非常に動作領域の広い電子銃の実現が求められる.ジャイロトロンの広範な応用展開を目指す上で,周波数可変機能の付加は画期的であり,実現すれば学術的意義も大きい.これまでの数値解析により,ラミナー性の高い電子ビームでは広い動作領域で低分散が維持される事を確認している.したがって,ラミナー電子流の形成手法が,広帯域電子銃の設計に,そのまま応用可能であると考えられる. 以上の発振管開発の結果を吟味し,電子銃の最適設計手法をまとめる.具体的には,ラミナー流の形成に必要となる電極形状の雛型を作成し,ラミナー電子流を形成する為の手順を示す.
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次年度の研究費の使用計画 |
電子銃設計の最適化を行い,電子ビーム特性に影響を与えない部分に既存の構造を取り入れるなどの工夫を施して,製作費用の低減を図った為. 主な用途は,162 GHz ~ 265 GHz 多周波数発振管へ搭載する電子銃の製作である.また電子銃の性能試験にあたり,完成した電子銃を発振管へ取り付けする固定具の製作,並びに発振管を超伝導マグネット上へ精度良く配置するための調整具の製作を行う.加えて,成果をまとめた学術論文の出版費用も計上する.
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