研究課題/領域番号 |
25820162
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
實松 豊 九州大学, システム情報科学研究科(研究院, 准教授 (60336063)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 無線通信 / レーダー / 複数目標の検出 / MPSK |
研究実績の概要 |
強力な雑音,未知の干渉・妨害波,大幅なドップラー周波数推移の存在が想定される劣悪な環境下で情報通信を行うには,まず時間と周波数の同期を確立することが必要である.携帯電話方式では互いに直交するサブキャリアに情報を乗せて並列送信するOFDM(直交周波数分割多重)が採用されているが,時間と周波数の完全な同期を前提としており,通信機器の移動に伴うドップラー周波数によりキャリア間干渉が急激に増大する問題を抱えている.本研究の目的は時間と周波数のゆらぎに強い同期回路を設計することである。 平成25年度に提案したPhase Updating Loop (PUL)法は正確な時間と周波数の同期の確立と保持を可能にした.このことは多値位相変調(M-ary Phase Shift Keying; MPKS)が可能であることを意味した.平成26年度は人工的な遅延と周波数のずれを加えることにより8PSKまで容易に実現できることを示した.また,符号分割の概念を導入することにより16PSK信号の受信が可能であることを示した(WCNC2014).数値シミュレーションにより128PSK信号の受信が可能であることを示した.(MACOM2014). 平成26年度はマルチパス通信路の通信路推定問題にも取り組んだ.フェージング環境下において伝搬遅延とドップラー推移の両方を検出可能な従来法として,Schmidl-Cox(SC)法とこれを一般化した方法が知られていた.これらの方法では,訓練用の長さNのプリアンブルが,同じ長さのM個の部分に分割される.平成26年度はドップラー推移が緩やかに変化するという仮定の下,数値実験により最適な分割数を与える簡便な式としてM=√(N/2)を与えた(WPMC2014).また,一般化されたSC法では符号パターンに任意性があったが,最適な符号パターンを与えた(SETA2014).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書の研究計画では、平成26年度は,同期捕捉後のビット誤り率の評価を行う予定であった.ただし,この評価については当初想定よりも困難であることが初年度の研究により明らかとなったので,昨年度の実績報告書において,計画を修正し平成27年度に行う予定であったマルチパスフェージング通信路における通信路推定を前倒しで実施することとした. PUL受信器の根幹となるアイデアは平成25年度に国内特許出願していた(特願2013-124389および,特願2013-175279, 特願2013-177366, 特願2013-209734).平成26年度は, これらを2件の国際特許としてまとめPCT出願した(PCT/JP2014/072344, PCT/JP2014/065733).
実施計画を一部修正せざるを得なかったが,おおむね順調に進展していると判断される.
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今後の研究の推進方策 |
従来のレーダーでは,受信機における標本化レートはナイキスト基準に沿って決められる.すなわち使用する帯域幅の2倍以上が必要である.研究代表者らの提案したガボール分割スペクトル拡散システムでは時間領域と周波数領域の拡散符号を利用するので,無拡散の場合に比べて最低でも16*16=256倍の標本化レートが必要であった. 研究代表者はBajwa らの超解像レーダーの手法(2011年)に注目している.超解像レーダーでは,受信器の標本化レートは送信信号の帯域幅に無関係に検出したいターゲットの最大数に比例して決まるので,標本化レートを大幅に下げることができる.Bajwaらの手法では,未知パラメータ,すなわち遅延とドップラーの推定法としてProny法が利用される.しかしながらこの手法はもともと無雑音環境が想定されているので,これに基づくBajwaらの手法でも信号対雑音比(SN比)が40dB以上の場合は非常に良い推定精度を達成するが,SN比が20dB以下の場合には極端に推定精度が悪くなる.無線通信環境ではSN比は0-20dB程度が想定されるので,このままでは無線通信へは応用できない. 一方,PUL法はスペクトル拡散の方法に基づいており,信号のスペクトルを広い帯域に拡散するので,低SNRで動作することが特徴である.本研究では,PUL法における標本化レートを下げてProny法を応用し,かつスペクトル拡散における逆拡散の方法を適用することにより低SNRでも動作する受信法を提案する.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は,2つの重要な国際会議に採録されたため外国旅費が不足する事態となった.不足額を50万円と見込んで前倒し支払請求を行った.出張旅費の算出は概算であったため,38,775円超過することとなったので次年度使用額とする.
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次年度使用額の使用計画 |
前倒し支払請求を行ったので,最終年度は国際会議出張を取りやめる.主に国内出張旅費として使用する予定である.
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