本研究では、磁性体発振素子アレイの同期特性の向上による高出力化に向けて、位相記述に基づく注入同期機構の数理的最適化の手法について探究した。
平成25年度の研究では、まず、時間領域において、発振素子単体のダイナミクスを記述するLLGS方程式から位相応答関数を算出し、対応する位相方程式を導出した。次に、得られた位相方程式から、注入同期の周波数引き込み範囲を最大化する入力波形とともに、注入同期の安定性を最適化する入力波形をそれぞれ求めた。これらの結果から、磁性体発振素子の注入同期特性を最適化するためには、注入信号の持つ高調波成分が本質的に重要であることを示した。
平成26年度の研究では、磁性体発振素子単体から導出した位相方程式に、素子間の相互作用に対応した位相結合関数を導入し、磁性体発振素子アレイのダイナミクスの数理的解析を行った。このとき、静磁気相互作用による連続的な位相結合関数とパルス電流相互作用による離散的な位相結合関数のそれぞれの効果について比較した。その結果から、後者の相互作用の方がより頑健な同期特性を示すことを示した。さらに、工学的な応用に向けて、磁性体発振素子アレイのフェーズドアレイ動作とその注入同期特性について研究を進めた。位相縮約理論に従い、同相同期と異相同期が生じる条件を明らかにし、フェーズドアレイ動作を実現できることを理論的に示した。また、注入同期によって任意の位相勾配を生成するための条件について理論的に解析し、その最適化を進めている。これらの結果については、論文にまとめて発表する予定である。
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