本研究は,有限振幅超音波が金属界面等に入射したとき,非線形振動が生じ,非線形超音波(2次高調波・分調波等)が発生するという超音波の非線形性を利用して,ボルト-ナットの締結状態の新しい検査法を開拓するために行われた. 今年度は,ボルト-ナット間にシール材がついている場合を模擬した検討を行った.シール材により,ねじ山の接触状態が変化するため,計測に影響を及ぼす可能性が高いと考えられる.実験では,固体同士を接着し,結合剤の面積や試料の厚さを変えることで,超音波の反射係数を測定し,2層目の固体内部への透過量を検討した.その結果,振動子直径の4/5以上であれば,ほぼ透過するが,それ以下になると徐々に透過量が減少し,3/10程度の面積ではほとんど透過しない結果となった.この結果より,ボルト締結の場合に適用するには,ねじ山部分に塗布する接着剤をある程度の量を必要とし,接着面積を多くする必要があるものと考えられる. また,ボルトの材質を変えた場合の検討を行う.材質によりボルトの強度区分が異なるため,適正な軸力が変わる.これまでの鉄製のボルトに加えて,ステンレス材の同型のボルトを用いて実験結果との比較を行った.特に,軸力に対する反射係数を測定する実験においては,ボルト軸力の増加に伴って,反射係数が減少する結果が得られたが,その傾向は鉄製とステンレス材で共に同様の傾向が示された.ただし,測定のばらつきが大きく,現状は緩んでいる状態と,十分に締まっている状態の判別ができるという評価が行えるのみであるため,今後はより細かな軸力の差異を区別できるよう精度を高める必要がある.
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