数ng以下の付着物質の質量を検出できるQCM(水晶振動子微量秤)の測定時間短縮と測定精度を向上するための新たな測定システムである位相同期型QCMを平成25年度科研費研究課題にて提案し,1ngの質量変化を数Vの電圧変化として検出可能なことを明らかにした.本研究では,位相同期型QCMをさらに発展させ,従来検出が不可能だった比較的分子量が小さな環境ガス計測への応用を目的とした周波数オフセット位相同期型QCMの提案と性能評価を行った.評価に当たって,QCMを構成する発振回路側の影響と,ガス吸着における最適な条件の2つの側面に着目し研究を進めた. 位相同期型QCMの場合,2組の水晶振動子対の差分によって質量変化を測定するため,振動子対の特性が揃っていることが求められるため電極を隣接させる必要がある.このため,アイソレーション不良の場合相互の振動が影響し合うため,低電流で励振する必要がある.発振回路の負性抵抗値を変化させ周波数安定度を測定した結果,負性抵抗値を1桁程度変化させても発振周波数の安定度には大きな影響が無いことを明らかにした.また,位相同期させる際の条件として,VCXOの周波数可変感度は低いほど本方式の検出感度は上がるが,高感度化すると計測可能な濃度範囲が狭まるため,DDS(ダイレクトディジタルシンセサイザ)を用いることで高感度化と濃度変化に対するレンジの拡大を実現した.本研究ではエタノールガスを検出対象としたため,エタノールに対して反応を示すオレイン酸を用いた.この際,水晶振動子表面に塗布する最適な条件としてオレイン酸をエタノールで1wt%に薄めた溶液でディップコーティングすることでエタノールに対して最も高感度な反応を示した.標準ガス発生装置を用いて空気と混合したエタノールガス濃度10ppm~270ppmの範囲で変化させた場合,ガス濃度に応じた出力が得られた.
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