本研究は,統制者(制御器)がエージェント集団(制御対象)の状態を直接観測することは出来ず,ある観測(出力)関数を通して限定的な情報しか得られない状況で制御する問題を進化ゲームによってモデル化し,その性質を明らかにすることを目的とする. 昨年度までに扱った税と補助金による利得操作を課したレプリケータダイナミクスでは,目標状態が元のシステムの平衡点の場合のみに限定して安定化条件を明らかにしていた.本年度は,目標状態が元のシステムの平衡点ではない場合にも適用できる,任意の目標状態をレプリケータダイナミクスの平衡点にする補助金の配分法を提案し,その安定化条件を明らかにした.また,目標状態がナッシュ均衡になる条件と進化的に安定な戦略になる条件も同様に明らかにした. また,昨年度に引き続き,利己的なエージェントへの公平なリソース配分問題について研究を行った.昨年度は,すべてのエージェントに対して単一のリソース管理者が直接リソースを配分する場合の利得公平化リソース配分法を提案した.しかしながら,例えば通信の帯域幅の配分を考える場合,大きなビルなどにおいては,ビル全体で利用可能な帯域幅を各部屋に配分した上で,各部屋ごとに各エージェントに対して配分する必要がある.本年度は,リソース管理者が複数の副リソース管理者を通じてリソースを配分する状況において,すべてのエージェントの利得を公平化する階層型のリソース配分メカニズムを提案した.各副リソース管理者における局所的な公平化を実現する,観測した各エージェントの利得と公平性指数に基づいたリソース価格の更新法を提案した.また,リソース管理者における,各副リソース管理者で公平化された利得に基づいた各副リソース管理者へのリソース配分法を提案した.
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