一般に,カンボジアを対象とした降水研究が困難な理由は,(1)東南アジア最大で,かつ,1年の中で5倍程度も拡縮する淡水湖があり,地表面の空間不均一性や季節変化に富むことから,独特な大気場が形成されているとみられること,(2) 現業での高層気象観測がされておらず,全球客観解析データに当該域上空の地上由来データが含まれていないこと,である.そこで本研究では,独自に高層気象観測を実施し,それに基づいてデータ同化した領域気象モデル計算値を用いて,当該域の降水メカニズムに関して検討した. 高層気象観測は,カンボジアの2地点(湖上と陸上)で実施した.計算には,領域気象モデルWRFおよびその付随データ同化システムWRFDAを用い,NCEPの全球客観解析FNLを物理的にダウンスケーリングした.なお,全球土地利用データでは湖面積が常時一定であるため,GCOM-W衛星搭載センサAMSR2によって推定した水域分布を重ね合わせて湖水域を10日毎に変化させた. 衛星降水量データGSMaP/MVKや地上降水量との比較により,2地点での高層気象観測データを同化するだけでも,大幅に対象降水の推定精度が向上することが示された.特に,これまでの研究では,夜間特有の現象が大きく影響していると考えられていたが,本研究では,昼間の大気を同化するのみでも当該降水の推定精度が上がることが示され,当初想定していた夜間特有の現象に対して,昼間の大気陸面湖面相互作用が果たしている影響についても考える必要性が示唆され,その検討結果について,現在,論文投稿準備を進めているところである.また,たとえ2地点の昼間のみでも,高層大気観測を実施することでこれだけ降水予測精度が向上することを示すことができたことは,今後のカンボジアでの現業高層気象観測実現に向けて,カンボジア国内のみならず,世界各地の関係者にとって,貴重な情報になると考えられる.
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