研究課題/領域番号 |
25820231
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 愛知工業大学 |
研究代表者 |
赤堀 良介 愛知工業大学, 工学部, 准教授 (50452503)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 流木 / 流れの構造 / 画像解析 / 数値解析 / 現地観測 |
研究概要 |
流木の集積は堰上げによる氾濫や構造物の破壊といった重大な被害を及ぼす.本研究では流れの構造に応じた流木の挙動に着目し,河道形状に応じた流木集積傾向を空間的に把握する手法を構築する. 本年度の研究では,コントロールされた流れ場の上での流木の挙動を既往実験の再検討と追加実験による検証から考察することで,流木長がもたらす影響を詳細に検討した.実験では,乱流の大規模構造を周期的に供給するために,水制群を設置した開水路を用いた.ここに同質量で長さの異なる流木模型を流下させ,流木に対してはPTVを,流れに対してはPIVを適用し,解析を行った.またPIVにより得られた流速ベクトルに対して,個別の球状要素を剛体として連結した流木モデルを適用し,個々の流木の挙動を検討した.結果から,流木は慣性の影響を受けて渦度の高い領域を避けて集中化する一方で,自身の長さが長くなるのに応じて集中化が緩和される事が確認された.また数値モデルによる検討から,流木の長さによる影響が,流れ場に対してローパスフィルター的に働く事で,集中化が緩和されることが推測された. また,流木の輸送は水平渦等の流れの構造に強く影響を受けるため,これら流れの構造のメカニズムを空間的に把握する事は,本課題の重要な要素となる.代表者らは,既往の3次元数値解析により,水制周辺では特徴的な複数の構造が生じている事を確認してきた.本年度は,上記の流木実験に対する検討に加えて,単一水制を有する実験水路での流況をPIVにより面的に解析し,その結果に対してwavelet解析を適用する事で,これまで数値解析的に推測された上記の流れの構造そのものを実験的に再検討した.結果として,水制周辺では横断方向流速成分の変動と鉛直方向流速成分の変動のどちらもが時間を経るにつれ下流側に移流していく事が示され,これらをもたらす特徴的構造の存在が実測からも確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 流木の拡散に対しては流木長などの特性が影響を与えることが示唆されている.H25年度の主たる計画として,この検証を目的とした水路実験と数値実験を完了した.実験では流れ場の時空間のスケールを特定しやすい状況を設定し,それに対して流木模型の相対的スケールや形状を変化させながら,両者の関係を整理した.現在までの進展として,流木長に関しては小規模な流れの構造に対して空間フィルタ的に働くことで,運動方程式で支配された輸送機構の小スケール渦に対する反応に由来する主流域への集中化を緩和させることが示された. 2. 計画では,流れ場と流木のスケール比に応じた拡散係数の導出を元に,流木の数値モデルをrandom-walk型モデルへと展開する予定であった.実際には1.の検討から流木の輸送は運動方程式による記述が適していることが確認された.このため上述のモデル化に代わり,流木要素のスケールに応じて流れ場の格子スケールを解像することで空間フィルタの影響を考慮し,そこに単体粒子の運動方程式による流木の記述を行う方針へと改めた.この手法自体にはモデル再構築の必要は無く,モデル構築はほぼ完了状態にある. 3. 数値解析を主体とした既往研究より流速成分の1次元空間分布にwavelet解析を適用すると,特徴的な流れ場の瞬間構造を抽出可能であることが確認されている.計画では実河川データから同様に流速の空間的分布を抽出し,wavelet解析手法の適用性について検討を行うことを予定していた.実際には代表者の所属変更等から予定していた観測データの取得が実施困難であったため,水理実験からの流速ベクトルの実測値を用いたwavelet解析を行った.これより実測値に対する同解析手法の適用性の確認に関しては,完了したと考える.実河川を対象とした検討は完了できなかったため,次年度も引き続きデータ取得の機会を探るものとする.
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今後の研究の推進方策 |
1. 平成26年度は,前項の3.の成果をもとに,wavelet解析による実河川流れ場の解析を行う.現在,対象河川は選定中であるが,H-ADCPや画像解析のような,何らかの空間的分布を検討可能な観測方法を実施することを予定している.当初の計画では流木輸送の観測実績を有した現地選定を予定していたが,選択肢を大幅に狭めることとなるため,まずは流れのみの現地での観測を優先させ,流木挙動の解析とは並立したテーマとして,現地流れ場の空間的検討について一旦の完成を試みる. 2. 流れ場と流木の輸送の現地での関連については,対象地域周辺の高解像度LPデータが存在する場合は詳細な流れ場の数値解析が可能であり,既存の流木観測データに対する実河川流れ場の影響の評価は可能であると考えられる.このようにして検討された流木の挙動を,前項の1.と2.の検討により得られた結果と比較することで,これら知見の現地適用性について評価を行う. 3. ここまでの検討から,流れ場における流木の集積傾向に関しては空間的な特徴を見出すことが可能となる.一方,最終的な流木災害は局所的な集積が生じる箇所で発生し,先行する既往研究に示されたような水深と直径等に応じた条件が重要となる.ここではそれら既往研究の知見と1.~3.を融合し,流木集積危険度と回収可能性を空間的/定量的に評価し得る手法を開発する.さらに進展が可能な場合,汎用のオープンなソフトウェア上にこれら知見を集約し,プリ-ポスト処理を含めた流木集積危険度の定量的評価手法の確立を目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
代表者の所属の変更に伴い,物理的な距離から当初に想定していた河川での調査が困難となったため,H25年度中は観測が実施できなかった.この観測においてH-ADCPをレンタル利用して実施した場合の凡その見積もり額である約400,000円の金額が繰越となっており,この分を今年度の観測費用に加え,現地での計測の充実を目指す.なお,対象地は新たに選定中である. 実河川の流れ場の空間的検討に関し,予備的な手段として画像解析的な手法を用いることを想定している.その際,水面反射抑制や夜間撮影に有利な高感度赤外線カメラあるいはサーモグラフィの利用を予定しているが,これもレンタルあるいは貸与を想定し,旅費等のみを想定する. そのほか旅費としては,現地観測,打ち合わせ,成果発表を計上している.USGSから資料の提供を予定しているが,可能である場合は,内容確認のため現地での打ち合わせを予定している.
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