波浪の砕波によって海中へ輸送される炭酸ガスの量を明らかにすることは、豊富な生態系を有する沿岸域の環境変化を予測するうえで重要であり,そのためには気泡と流体が混在する砕波帯の気液混相乱流場の物理機構とガス輸送との関係を定量的に評価することが必要となる.本年度はこれまで構築した溶存炭酸ガス濃度の時空間変動を計測可能なLaser Induced Fluorescence (LIF)システムを用いるとともに、砕波下の乱流場を計測可能なParticle Image Velocimetry (PIV)システムと混入気泡の輸送過程を可視化可能なBacklightシステムを新たに用いることによって、造波水槽内の砕波帯における溶存炭酸ガス濃度と流体の乱れエネルギーおよび気泡混入強度との関係を定量的に評価した。流体の乱れエネルギーと気泡混入強度が最も高い遷移領域(砕波ジェット着水点から岸側ボア領域に至る範囲)では、気泡および流体の強い乱れが液相深部へのガス輸送に大きく寄与すること、さらに、深部へ輸送された炭酸ガスは波峰の通過後に発達する戻り流れによって沖側へ輸送されることが確認された。また、遷移領域より水深が浅い岸側ボア領域では、ガス濃度の上昇速度が遷移領域よりも速く、高濃度化した溶存ガスが戻り流れによって底面付近を経由して沖側へ輸送されることが明らかとなった。気泡や流体の乱れによるガス輸送への寄与については、外洋での風波砕波に関する研究においても指摘されていたが、沿岸域の場合、これらの寄与に加えて、砕波帯で顕著に発達する戻り流れが、溶存ガス濃度の時空間変動、とくに底面付近の変動に大きく寄与することを明らかにした。
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