研究課題/領域番号 |
25820234
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 国土技術政策総合研究所 |
研究代表者 |
片岡 智哉 国土技術政策総合研究所, 沿岸海洋・防災研究部 沿岸域システム研究室, 研究官 (70553767)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 海洋プラスチック / 滞留時間 / 線形システム解析 / 海浜流 / 潜堤 / 和田浜海岸 |
研究概要 |
海洋中に存在するプラスチックが海洋生物の体内に取り込まれることにより、生態系への悪影響が危惧されている。特にプラスチックは海岸において著しく劣化するため、海岸に漂着してから再漂流するまでの滞留時間を把握することが必要不可欠となる。本研究では、海岸におけるプラスチックの滞留時間を計測し、その決定要因を明らかにすることで滞留時間のモデル開発を試みることを目的とする。 初年度には、東京都新島村和田浜海岸に漂着するプラスチックフロート(PF)を対象として1-3ヶ月に1回の頻度で個体識別調査を実施して、滞留時間の計測を行い、個々のPFの漂着位置をGPSで計測することで再漂流過程の物理メカニズムを明らかにした。 和田浜海岸においてPFの残余数は、指数関数に従って減少していくことが明らかとなった。残余数の時間変化を指数関数で近似することで、残余関数を決め、滞留時間を計算したところ、7.5ヶ月であった。さらに、残余率の指数関数的減少は、和田浜海岸が線形システムであることを示唆しており、和田浜システムの線形応答特性を明らかにした(Kataoka et al., MPB, 2013)。 また、残余PFは沿岸方向に輸送されながら、海岸沖合の潜堤背後に相当する区画に集積していた。この沿岸方向の輸送過程を1次元移流拡散方程式で表現し、再漂流する可能性の高い区画を特定するための数値実験を行った。その結果、PFの集積区画(潜堤背後)で再漂流している可能性が高いことがわかった。潜堤背後には、海浜流の一つとして沖合への戻り流れが発生することが、多くの研究で確認されている。以上のことから、和田浜海岸においてPFは沿岸流の働きにより沿岸方向に輸送されることで潜堤背後に集積し、そのPFの一部が、潜堤背後に形成される戻り流れによって沖合に再漂流することが示唆された(Kataoka et al., OSM, 2014)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
和田浜海岸におけるプラスチックフロートの滞留時間の計測手法およびプラスチックの線形応答特性に関する論文を国際学術雑誌(Marine Pollution Bulletin)に投稿し、受理された。さらに、掲載されてから4ヶ月間で当論文のダウンロード数が、世界で150程度に達しており、世界中の多くの研究者から高い関心を得ている。また、土木学会環境水理部会が主催する流域圏シンポジウム「流域圏の物質輸送に関する実態評価の現状と課題」で本研究成果についての講演も行った。一方、海岸におけるプラスチックの挙動に関する研究成果は、2014年2月にハワイで開催された2014Ocean Sciences Meetingでポスター発表を行っている。以上、当初計画どおりに研究が進捗し、国内外で研究発表していることから、研究課題について順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの個体識別調査で明らかとなった和田浜海岸における再漂流過程の物理メカニズムについての確証を得るため、和田浜海岸沖合における海浜流の形成パターンを現地観測もしくは数値モデルを用いて詳細に調べる。これに併行して、和田浜海岸における滞留時間モデルの開発に着手する。また、滞留時間モデルの検証用データを取得するため、新たな観測地点で個体識別調査を開始する。
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次年度の研究費の使用計画 |
東京都新島村和田浜海岸における個体識別調査は、研究代表者と連携研究者の2名体制で実施している。当初、個体識別調査を2ヶ月に1回の頻度で年間6回予定していたが、調査員2名のスケジュールが合わず、年5回の実施となった。1回に必要な旅費が2泊3日の行程で1人当たり約5万円であるため、10万円程度の次年度使用額が生じた。 次年度に東京都新島村和田浜海岸で個体識別調査を1回行うことで、当該年度未使用額を使用する。また、次年度に請求する助成金を用いて、滞留時間モデルの検証用データを取得するため、和田浜海岸以外の海岸(石川県輪島市三ツ子浜海岸を予定)において個体識別調査を実施する。
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