研究実績の概要 |
交通事故死亡者数は減少傾向にあるとはいえ、平成23年中の死者数は4,612に達する。このうち、実に66.5%(1,121人)が、歩行中に事故に巻き込まれた高齢者である。この数を劇的に減らさなければ、交通事故問題の解決はあり得ない。高齢歩行者事故の削減のためには、これらの事故がどのようなメカニズムで発生するかを明らかにする必要がある。そこで本研究は、どのような特徴(身体能力、認知能力、性別など)を持った高齢者が、歩行者として交通事故に巻き込まれる傾向にあるのかを、明らかにすることを目的とした。過去3年以内に歩行中の交通事故にあった高知県内の65歳以上の高齢者(以下、事故あり群)と、彼らと同一地区に居住し、年齢が近く、性別が同一の事故に遭っていない高齢者(以下、事故なし群)とに対して、質問紙調査を実施した。その結果、事故なし群は、事故あり群に比べて、調査時点において統計学的に有意に身体運動量が多く、自己申告式の視力検査尺度の成績が良く、自己申告式の記憶検査の成績が良いことが分かった。一方、同居する家族人数、住まいのタイプ(集合住宅か戸建てか)、自動車運転の有無および運転頻度に関しては、両群で有意な差は検出できなかった。このことから、視力、身体運動力、認知機能の低下が、歩行者として事故に遭うリスクを高めている可能性が示唆された。ただし、事故にあった後、肉体的もしくは精神的な理由で外出が少なくなり、身体運動量が減少したという逆の因果関係が作用している可能性もあり、身体運動量と事故リスクとの関係については、今後より精緻な分析が必要である。
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