本研究は,既存低強度コンクリート建物の耐震性能評価手法の確立を目指し,低強度コンクリート柱梁接合部の耐震性能について構造実験を通じて解明するとともに,耐震改修のために継続使用可能な低強度コンクリートの適用限界を明らかにすることを目的としている。 平成27年度は,1970年前後に建設され腰壁・垂れ壁を有する既存低強度コンクリート建物を想定し,腰壁・垂れ壁による周辺部材への相互作用や丸鋼主筋の付着劣化による抵抗機構の影響を把握するために,腰壁・垂れ壁の有無を変動因子とした柱梁接合部(十字形,ト形)の構造実験を行った。 実験結果により,腰壁・垂れ壁を有する柱梁接合部では接合部の変形が抑制され,壁端部の圧壊が先行して最大耐力に達するが,最終的には接合部のひび割れ損傷が拡大して接合部せん断破壊に至ることを明らかにした。歪分布の検討により,梁主筋および壁筋ともに降伏は見られず,付着劣化に伴う鉄筋の抜出しが確認された。最大耐力については,腰壁を有する場合では約1.5倍に,腰壁・垂れ壁を有する場合は約2倍に増大し,腰壁・垂れ壁を有する試験体の最大荷重は,日本建築学会の終局強度型指針による耐震壁のせん断強度計算値と良好に対応することを示した。腰壁・垂れ壁を有する試験体では,履歴吸収エネルギーおよび等価粘性減衰定数も増大することが確認されたが,大変形時には急激に耐力低下を起こすため,腰壁・垂れ壁の耐震性能に対する効果は限定的であることを明らかにした。
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