研究概要 |
本研究は, 木質構造の耐震性能の向上を目的に, 特に実務者が検討に十分な時間を充てられない評価基準に関わる問題点について, 主に 2 つのアプローチでその解決を試みるものである。具体的には, 研究協力が得られている伝統的な構法で建てられた社寺建築を対象に, 順問題として木材間の摩擦特性のモデル化, 逆問題として強震観測結果に基づくシステム同定によって, その耐震性能評価を進めている。 H 25 年度は, このうち逆問題としてのアプローチであるシステム同定の環境を整えることを目的に, 部分空間法に基づく動特性の同定プログラムを構築した。当初の研究計画では, H 26 年度の実施を考えていたが, H 25 年度の段階で有用な強震記録がいくつか得られたこと, 別途実施した木質構造建物の振動台実験によって, その精度検証が図れることなどを理由に, 当該課題を前倒しして進めることとした。 一方, 順問題, すなわち摩擦特性のモデル化も並行して進めている。この問題では, その境界条件を実験的に詳しく調べる計画であったが, 木材の粘弾性が摩擦特性にも影響を及ぼすことが予想されたため, H 25 年度は木材の粘弾性の評価を先んじて解決すべき課題と考えて検討を進めた。当該課題は, 当初の計画にはなかったが, 木材の粘弾性を調べる簡易試験を提案すると共に, 粘弾性の評価方法の検討も進めた。 H 25 年度からの研究課題のため, 当該課題と直接関わる論文発表ではないが, 前述の同定プログラムの精度検証を行った振動台実験の報告, および粘弾性特性の簡易試験に関する報告は既に発表した。H 26 年度には, 本課題の論文発表も進める計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績に述べた通り, H 26 年度に予定していた計画を前倒しして検討を進め, 一方で H 25 年度に実施を予定していた実験を遅らせている。これらの点から, 各年度の計画を入れ替えたとすれば, 順調な進展と判断される。しかし, H 25 年度に計画していた摩擦特性の評価に当たっては, 先んじて木材の粘弾性評価が必要となったため, この点について検討こそ進めているものの, 当初の計画にはない課題であることから, 研究計画より遅れていることも否定できない。以上から, 既に一定の成果が得られているが, 当初計画の一部に遅れがあるため, 概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前述の遅れの原因である木材の粘弾性評価については, 数値計算上, 悪条件となる緩和スペクトルの計算方法を現在検討している。この成果によって評価尺度が確立できれば, 木材の粘弾性を体系的に整理し易くなるため, いくつかの樹種についてその評価を進める計画である。また, 本課題の摩擦特性にもこれらの成果を反映すると共に, 本年度繰り越した予算を利用して, 実験的な摩擦特性の評価を進める計画である。 論文発表は, 本年度の成果である同定プログラムにより, 対象としている建物を評価した結果を木質構造に関する国際会議に投稿している。この会議に関しては, 既にアブストラクト審査を終えており, 8 月に発表予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究実績に述べた通り, H 26 年度の計画を前倒しして遂行した結果, H 25 年度に実施を計画していた実験に必要となる予算を現段階で執行していないため。 実験に必要な材料の購入, ならびに計測機器の導入に必要な予算とする計画である。また, 強震観測システムに本年度作成した同定プログラムを組み込む費用も併せて繰り越した予算から支出する予定である。
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