本研究課題では,以下二つのテーマを研究目的として掲げ,それぞれの目的に対してサブテーマを設定することで,円滑な研究の遂行を目指した.第一は,(1)物理的視点に基づく局所輸送メカニズムの解明,第二は(2)応用的視点に基づく都市内環境の評価,である.当初は,初年度にテーマ(1),翌年度にテーマ(2)を遂行する予定であったが,初年度に並行して両テーマを進めていたため,本年度も同様に両テーマを並行して実施した.その結果,テーマ(1)のサブテーマとして掲げていた壁関数によるフラックス推定の定量的評価を行うための数値解析を実施し,実験結果との対比により,運動量フラックスの推定は良好に可能であるのに対し,水蒸気フラックスの推定が非常に困難である点を示すことができた.また,初年度に引き続き,粗面場の乱流構造による運動量輸送メカニズムの解明を試み,これまで蓄積してきた数値解析データペースを基に,粗面場乱流構造の統計的性質を解明するとともに,単純粗度配列上に発生する乱流構造を条件付き平均によりサンプリングすることで,運動量輸送と密接に関連した乱流構造を抽出することに成功した.これらの結果は,国内外の学術講演において報告している.また,テーマ(2)については,初年度に大部分の解析を進めることができたため,本年度はデータの総括を行い,都市内歩行者空間における速度比と幾何形状について学術論文に報告している.また,都市キャノピー特有な非定常気流場と建物周辺気流の関係を明らかにするための新たな数値解析を実施し,粗度壁面圧力と周辺気流の関係性について把握することができた.これらの内容についても,国内学会において報告している.
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