本年度は、東北地方の板倉について、特に青森県下北半島について特徴的な板倉について昨年度実施できなかった現地調査を行った。現地調査では、各集落ごとに倉の立地する場所および棟数および代表的な板倉に対して、詳細図面を採取し、聞取り調査を行なった。また、本年度は研究の主対象ではないが、同時期の都市部における倉の近代化についても調査を行った。都市部では近代以降にコンクリートや金物などの新しい材料が導入され始め、倉にも導入されている。新しい後材料の導入により、伝統的な土蔵の意匠を踏襲しながら木構造とRC造を混合させて構成しており、細部では金物を使用するなど構法の工夫が確認できた。 期間を通して東北地方における群倉形式(倉を集中的に配置する形式)のみられた代表的な2地域について、調査により建築構法の多様性を明らかにし、使用木材種、立地、機能や用法などの社会的側面と構法の関連からその成立を明らかにしている。福島県桧枝岐村では、集落の各地に倉を集合配置している。これは火災による延焼の防止や谷間の集落により屋敷地が狭小なためだと考えられる。近世資料からは集落の周縁部に配置していることが確認でき、明治期以降に集落が拡大した際、倉を集合配置する場所を更にその周縁部に設けていることが確認できた。青森県下北半島でも同様に主屋から離した群倉形式であるが、耕作地となる後背の山間部の傾斜地、海岸線際の共有地など集落によりその配置形式が異なることが明らかとなった。
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