最終年度はソアヴェとカルミニャーノの調査を完了し、ヴェネトとトスカーナにおける生産的拠点の比較分析を行った。 ソアヴェ調査は、①1815年のナポレオン期カタスト史料を入手し、地形、土地利用、土地所有者の社会属性に関する分析、②都市内水路の形成と暗渠化に関する史料調査、③葡萄畑と醸造所の立地と空間構造について領域史的観点からから分析した。これは、領域と社会構造を歴史的に遡及し分析する意義を持ち、城塞都市という理解を超えたソアヴェの生産居住核としての側面を解明した点で重要である。 カルミニャーノ調査は、現地の研究者の協力を得て、①地形、地質、植生がつくる領域構造の把握、②メッツァドリア(折半小作制)が土地所有と生産構造を規定したことを示す3つの生産拠点類型ヴィラ、ポデーレ、カーザ・コロニカの実測調査、③斜面地形と地質にもとづく耕地と集積・加工建物の空間構成の分析を行った。カルミニャーノは18世紀から地理的原産地呼称が定められた地域であり、歴史的に保全が目指された産品と生産空間と領域構造を解明したことは、文化的景観の価値解読という点からも重要な意義をもつ。 以上、本研究は研究期間全体をとおして、ヴェネトとトスカーナという2つの地域の生産拠点を対象に、領域史的視点から地域の空間と社会構造を解明した。地域が異なっていても、地理的、気候的環境が類似している場合は2つの地域には同質な生産環境が存在しているが、ヴェネトにおけるヴィラを中心とした生産拠点と、トスカーナにおけるメッツァドリアにもとづく生産拠点とでは空間=社会構造には大きな相違があり、景観的相違に結びついていたことが確認できた。一連の生産加工プロセスの観点から地域を捉え直そうとする本研究は、領域史研究の新たな視角と方法論をもち、生業と都市のありかたを総合的にとらえる文化的景観の基礎研究へと接続する重要性をもつ。
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