国土の大部分を山岳地が占める我が国では、近代以降、山岳地の自然景観が広く発見され、その一部の優れたものは、昭和6年に施行された国立公園法を契機として保全されてきた。本研究は、国立公園法の施行を契機とした山岳建築の意匠論とその展開過程を把握し、我が国における自然景観をふまえた建築意匠論の萌芽と方向性を、山岳地に即して捕捉するものである。具体的には、国立公園協会が発行した『国立公園』を基礎資料として、このなかで論じられた山岳建築に関する意匠論を主な分析対象とし、【資料整理】と【基礎研究】と【事例研究】を進めた。 【資料整理】:国立公園法の施行を契機とした山岳建築の意匠論の抽出・整理 【基礎研究】:国立公園法の施行を契機とした山岳建築の意匠論に関する展開過程 【事例研究】:山岳建築の設計競技における作品とその評価の方向性 平成26年度には、平成25年度に進めた【資料整理】をふまえ、国立公園法の施行を契機とした自然の風景地にたつ建築の意匠論を具体化した建築作品の先駆的な事例である、岸田日出刀が関わった殺生小屋の設計に即して【基礎研究】と【事例研究】を進めた。その結果、殺生小屋の設計を代表例として国立公園内にたつ建築物の設計事業が国立公園協会によって実施されたこと、また、この設計事業が昭和6年(1931)に施行された国立公園法に内在する自然の風景地の保護と利用という相反する方向性への解答として、自然の風景地に調和する建築が実質的に模索された最初の取り組みであること、を明らかにした。
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