2015年度には、補足調査としてイヴレア大聖堂およびヴェローナのサント・ステファノ聖堂を中心とする現地調査と文献調査を実施し、またペルージャおよびスポレートにおいて関連文献の調査を行った。さらにサンティッシマ・アンヌンツィアータ聖堂において祭壇後背部の環状スペースの記録と細部の検討を行った。 本研究では、円形平面の集中形式の周歩廊が中央空間および聖性の焦点であるアプシスに対してどのような機能的関係を持つかを分析し、再利用材の配置計画と堂内入口の位置関係から周歩廊の機能的軸線および視線の関係を明らかにした。会堂入口は聖性の軸線に対して斜交するように配置され、入場した人々は中央空間を囲むよう移動し、聖性と正対する環状列柱の柱間を「入口」として儀式空間である中央空間に入場した。一方で、聖性の焦点であるアプシスに対しては周歩廊を横断する中央空間からの軸線が強調される配置となっており、周歩廊とアプシスは機能的な関係をもたなかったことが推測される。 こうした配置関係には、4世紀のアナスタシス・ロトンダにおける機能的な位置関係が影響を及ぼした可能性が考えられる。さらに環状列柱は以後の殉教者崇拝に関わるバシリカ形式のアプシス端部にも登場し、象徴性の強調と聖性の焦点化のために活用されたと思われる。 一方で、バシリカ式教会堂のアプシス後背の環状列柱による半円周歩廊は、初期中世以降増大するが、象徴性や聖性の焦点化だけではなく、拡大する聖遺物崇拝を機能的に解決する手段として導入が進んだようだ。イヴレア大聖堂やヴェローナのサント・ステファノ聖堂では縦に二重の特殊な周歩廊が登場し、バシリカ式の典礼機能と集中式の周回礼拝の機能を同時に内包するような構成へと発展したと考えられる。 これらの流れをより具体的に検証していくうえで、今後、環状列柱をもつ教会建築の幅広い調査と比較検討をさらに進めていく必要がある。
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