本研究は、大工道具および建築部材の加工痕跡について、調査・資料収集をおこない、その比較検討をおこない、近世以前の木造建築および部材加工技術の特質についてあきらかにしようとするものである。平成28年度は本研究課題の期間延長をして最終年度にあたり、平成27年度に実測調査を実施できなかった大工道具の資料収集をおこない、大工道具および建築部材の加工痕跡にかんする資料の収集を継続しておこなった。また、これまでに実施してきた大工道具の実測調査を中心とした調査成果の集約をおこなった。 大工道具の調査は、山口県防府市の指定有形民俗文化財である藤井家旧蔵大工道具について、実測調査は実施できなかったが、防府市より文化財指定されたときの調査資料の提供を受け、これまでよりさらに詳細に比較検討をおこなうことができた。藤井家旧蔵大工道具は、道具箱に残された墨書により、1700年代の年代と使用した大工の名前がわかる、34点の実用の大工道具である。 本研究課題では、近世の実用の揃いの大工道具を調査、比較検討をおこなってきたが、揃いで伝わる大工道具の多くが、近世の大工道具だけではなく、近代のものとみられる大工道具が混入している状況もあきらかになった。大工道具が近世のものであるのか、近代のものであるのかの判断は難しく、一揃いと言われている大工道具についても、個別に大工道具の年代を検討したうえで評価する必要があきらかになった。
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