研究課題/領域番号 |
25820321
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 庸平 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (70455856)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 電子エネルギー損失分光法 / 金属間化合物 / 光学特性 |
研究概要 |
Cuと同じ触媒機能を持つPdZnをはじめとした10族12族遷移金属元素で構成される金属間化合物(10-12族金属間化合物)は、d電子構造がCuと類似していることが分かっている。Cuの特徴的な色合いはd電子のバンド間遷移によって600nmよりも短い波長の光吸収に起因しているため、10-12族金属間化合物も同様に発色することが期待される。本研究では、モノクロメータ分析電子顕微鏡を用いて、組成比の乱れのない単結晶領域での10-12族金属間化合物から高エネルギー分解能電子エネルギー損失分光(EELS)測定を行い、誘電・光学特性を明らかにすることで、構成元素の組み合わせによるd電子構造の変化が金属間化合物の色合いにどのような変化をもたらすのか、発色のメカニズム・光学特性のコントロールという観点から研究を行っている。 昨年度は5種(NiZn, PdZn, PtZn, PdCd, PtCd)の金属間化合物からEELS測定を行い、KK解析により誘電関数・反射率の導出を行った。解析の結果、金属間化合物を構成する10族遷移金属の原子番号が大きくなるに従い、d電子に起因したバンド間遷移エネルギー値が大きくなることが明らかになった。10-12族金属間化合物の電子構造シミュレーションを第一原理計算(WIEN2k)を用いて行った結果,10族遷移金属の原子番号に従ってバンド幅が広がっていることが明らかになった.このことが、d電子に起因したバンド間遷移エネルギー値拡大の要因である.EELSスペクトルから導出した誘電関数を用いて反射率のシミュレーションを行ったところ、10族遷移金属元素の原子番号の大きさに従って、高反射エネルギー領域が近赤外光領域から可視光領域へ拡大していく様子が確認され、10族遷移金属元素により光学特性のコントロールが可能であることを示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、5種の金属間化合物(NiZn, PdZn, PtZn, PdCd, PtCd)からのEELS測定を行い、Kramers-Kronig解析により誘電関数・反射率の導出を行うことで、光学的性質を調べることを目的としている。5種の材料に関してEELS測定、誘電関数・反射率の導出はほぼ完了している。導出した誘電関数・反射率の解析の結果、10族遷移金属元素の原子番号が大きくなるほど、d電子のバンド間遷移エネルギーが大きくなることを見出した。また、高反射率のエネルギー領域も10族遷移金属の原子番号の増大とともに、近赤外領域から可視光領域へ広くなる解析結果を得ている。このことは、10族遷移金属の原子番号を変えることで、系統的に光学特性が変化することを意味し、組成元素の種類により光学特性がコントロール可能であることを示唆している。さらに、第一原理計算を用いた電子構造シミュレーションを行ったところ、10族遷移金属元素の原子番号が大きくなるにつれて、d電子のバンド幅が拡大している様子が明らかになった。この結果は、実験で観測された10族遷移金属元素の原子番号とd電子バンド間遷移エネルギーの依存性に対応する。原子番号が大きくなるにつれて10族遷移金属同士のd電子波動関数の重なりが大きくなることにより、バンド幅や遷移エネルギーが大きくなる要因と考えられる。このように構成元素の変化に伴い光学特性が系統的に変化し、そのメカニズムを解明することに成功したので、本研究の目的をある程度達成できた。 一方で昨年度得られたデータのいくつかはS/Nの十分でないスペクトルや金属間化合物の元素組成比がやや乱れた領域からのデータもあり、実験結果の再現性を確認する必要がある。そのため、今年度も引き続き各金属間化合物からのEELS測定を行い、昨年度得られた研究結果をより確実なものとするため、検証を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
5種の金属間化合物(NiZn, PdZn, PtZn, PdCd, PtCd)からのEELS測定は既に完了しているが、このうちPdCd, PtCdに関してはEELSスペクトルのS/Nはやや不十分であり、誘電的・光学的特性の再現性を検証する必要がある。より精度の高いデータを得るため、引き続きこれら2種の金属間化合物に関してS/Nを向上させたEELSスペクトルの取得を行う予定である。さらに、10-12族金属間化合物の組成比が変化した場合に、d電子構造がどのようになるのか、光学特性はどのように変化するのか興味が持たれる。電子顕微鏡を用いて、金属間化合物の組成比の異なる領域を探し出しEELS測定を行うことを試みる予定である。
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