研究実績の概要 |
金属間化合物のPdZnはCuと同様に、メタノール水蒸気改質反応において触媒機能を持つことが知られている。さらにPdZnのd電子構造がCuと良く類似していることが報告され、電子構造と触媒機能性との相関について議論がなされている。本研究では、これらPdZnをはじめとした10・12族元素からなる金属間化合物(NiZn, PdZn, PtZn, PdCd, PtCd)のd電子構造に起因したバンド間遷移を、透過型電子顕微鏡ベースの電子エネルギー損失分光(TEM-EELS)測定を用いて明らかにし、d電子構造形成メカニズムの解明を行った。 金属間化合物の単結晶領域をTEM観察により特定し、その場所からEELSスペクトル測定を行った。得られたスペクトルをKramers-Kronig解析を行うことで、誘電関数を導出した。その結果、金属間化合物の10族元素の原子番号が増加するに伴い、d電子に起因したバンド間遷移エネルギーが高エネルギー側へシフトする様子を観測した。さらに導出した誘電関数を用いて反射スペクトルを見積もると、d電子バンド間遷移に対応した反射率の落ち込みが高エネルギー側へシフトする様子を再現した。この反射率の落ち込みは可視光領域帯に分布しており、金属間化合物の光学特性が変化することを明らかにした。 金属間化合物のd電子バンド間遷移の起源をCuのバンド間遷移との比較により明らかにした。その結果、これらのバンド間遷移は10族遷移金属元素のd電子バンドの非結合状態から反結合状態へのバンド間遷移であることを特定した。つまり、10族遷移金属同士のd電子波動関数の重なりの大きさにより、そのエネルギー位置・バンド幅に大きく寄与していること考えられる。本研究結果から、d電子バンドのエネルギー位置とエネルギー幅を調整し、触媒機能性や光学特性をコントロールする可能性を見出した。
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