研究課題/領域番号 |
25820324
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
飯久保 智 九州工業大学, 生命体工学研究科(研究院), 准教授 (40414594)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 元素戦略 / 分子動力学法 / 第一原理計算法 / 進化的アルゴリズム / 材料設計 |
研究概要 |
まず本研究で用いる計算機システムの構築から着手した。学内共同研究者の大谷教授が東北大学へ異動したため、計画を一部変更して現有の設備を利用したシステムの構築を行った。管理ノードは既存のものを使用し、エネルギー計算等をおこなう計算ノードとして、4ノード64コアの並列計算機を本課題申請で新規に購入した。第一原理計算コードVASPについては既に設定等が済んでいるので、他の必要なソフトウェア(進化的アルゴリズムを制御するMatlab, 分子動力学計算コードGulp等)をインストールし、キューイングシステムTorqueを利用した並列計算の設定を行った. 次に古典分子動力学計算と進化的アルゴリズムを併用するUSPEXを用いて、ランダム構造からおおまかな安定構造を探索する方法について調べた。当初は複数のポテンシャル関数を試す予定であったが、Li-P-S系では論文として報告されているポテンシャルの調査が難航したため、見つかった一組のポテンシャル関数で安定構造の探索を行った。良好な収束性を確認することができた。 また、進化的アルゴリズムに関するパラメータ調査も行った。進化的アルゴリズムは、構造の数を人口にみたて、次世代の子孫にあたる構造を「生殖」、「突然変異」、「遺伝子組み換え」等の進化の仕組みに類似したアルゴリズムを用いて生成し、コスト関数によってどの子孫が生き残るかを決定するものである。これを効果的に利用するために、その制御に関する経験的なパラメータを古典分子動力学法、および第一原理計算法との組み合わせを用いて詳しく調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上に記述した研究実績の概要は、申請書に記載したものとほぼ同じで、予定通りに進められたことを示している。若干の変更点としては、以下の二点が挙げられる. (1)Matlabで計算する各世代の安定構造を探索する部分の計算時間が、全体の計算時間の中で大きな割合を占めることが分かってきた。これは管理ノードの計算能力に関わるため、更なる効率化には計算機のシステム構成を大幅に変更する必要がある。本申請で追加の設備購入はできないため、九州大学の大型計算機も併用して計算を行っている。今後に向けての検討課題であると考えている。 (2)当初はエネルギー計算に時間がかかると考えていたが、単位胞に2つ程度の原子数では全く問題にならないことが分かってきた。このため進化的アルゴリズムに関するパラメータ調査は、主に計算精度の高い第一原理計算との組み合わせにより調査を行った。より大きな系では古典分子動力学計算も重要な役割を担うことが予想されるため、今後は後者との組み合わせによるパラメータ調査も行っていくことが必要であると考えている。 このように計画の変更も最小限に抑えることができているため、順調に研究を進めることができていると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降も、初めは平成25年度の研究計画を継続して、古典分子動力学と進化的アルゴリズムに関するパラメータの調査を引き続き行う.パラメータの最適値が明らかになってきたところで、第一原理計算法の導入、さらには併用に着手する。これにより、より精密な生成エネルギーの計算が可能となる。その進行状況をみながら、徐々に実用材料を対象とした新物質探索へと移っていく予定である。 第一原理計算は本手法の最終段階において、精密な生成エネルギーを計算しながら安定構造を探索する、最も重要な部分である。本研究では、申請者に使用経験がある計算コードVASPを用い、整備したクラスター計算機を利用して研究を進める。さらにこの段階においては、実際の材料開発を見据えた系を設定して、その効果を検証していく。具体的には、新しい磁石材料として開発が期待されているFeをベースとしてレアメタルを含まない合金系、Fe-X 2元系でエネルギー的に安定な物質を、本手法を用いて探索する。 共同研究も積極的に活用して問題点等の早期解決を計りたい。状態図に基づいた熱力学、相安定性の観点からは東北大学・大谷教授との議論が有用であると考えている。また、デルフト工科大のMarcel Sluiter博士とはクラスター展開法についての共同研究の実績があり、本申請内容の特に第一原理計算の部分については有用な意見をしばしばいただいている。CALPHAD (Computer Coupling of Phase Diagrams and Thermochemistry)という国際会議では、頻繁に関連の研究発表があり、ここでの情報交換が問題点の解決に役立つと考えられる。また本手法について先端的な研究を行っている前述のUSPEXグループも研究会を開催しており、参加を検討している。
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