研究課題/領域番号 |
25820324
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
飯久保 智 九州工業大学, 生命体工学研究科(研究院), 准教授 (40414594)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 元素戦略 / 分子動力学法 / 第一原理計算 / 進化的アルゴリズム / 材料設計 |
研究実績の概要 |
前年度に構築した計算機システムを用いて物質探索の計算を行った。対象とした系は、リチウムイオン二次電池の固体電解質として注目されているLi-Ge-P-S系化合物である。近年注目されているLi10GeP2S12では、GeS4四面体とPS4四面体で構成される骨格構造があり、その隙間をLiイオンが一次元的に伝導することで高いイオン伝導度が実現していると考えられている。ここでは同様の構造を持った類似構造を、本手法により探索することを目的とした。 まず既に存在が確認されている化合物が、安定構造として本手法により再現できるかどうかを確かめた。Li:P:S=3:1:4の組成比で安定構造探索を行った結果、わずかな歪みはあるものの、報告されているγ-Li3PS4に酷似したものが得られた.本手法による安定構造探索の有効性を示していると思われる。一方で、Li:Ge:S=4:1:4の組成比で安定構造探索を行ったが、最安定構造は報告されている結晶構造とは異なったものであった.得られた最安定構造のエネルギー値は-4.2457 eV/atomとなったが、報告されているLi4GeS4の結晶構造でのエネルギー値は-4.2610 eV/atomと見積もられ、0.0153 eV/atom だけ安定である。現状では、より安定な構造が本手法では探索できておらず、今後の改善が必要である。 また、Li:Ge:P:S=10:1:2:12の組成比で安定構造探索を行ったが、現時点までで報告されている安定構造と一致するものは得られていない。報告されている結晶構造では、占有率が1でないサイトが複数含まれている。これに対して第一原理計算では完全な規則構造のみを取り扱っているため、固溶状態が安定となる現実の物質と比較した場合に差異が生じる可能性がある。現状では、このような構造に対して本手法の有効性は制限されると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上に記述した研究実績の概要は、申請書に記載したものに概ね沿った内容となっている。研究を進める中で顕在化した問題点と、その解決方法についていかに述べる。前年度に、各世代の安定構造を探索する部分の計算時間が、全体の計算時間の中で大きな割合を占めることが分かり、この改善策が必要となった。今年度は更なる効率化を目指して新たな計算機システムを導入し、安定構造探索の計算時間を短縮させた。第一原理計算については九州大学の大型計算機も利用し、安定構造の探索に適したシステムが構築できたと考えている。 本年度より、進化的アルゴリズムに関するパラメータ調査を本格的に進めているが、前年度に得られた知見により、計算精度の高い第一原理計算との組み合わせにより調査を行った。具体的な系としては、永久磁石材料として期待されているFe-Co系化合物と、電池材料として期待されているLi-Ge-P-S系化合物に取り組むと申請書には記載したが、今年度は後者に注力した。その理由は、新規構造探索には、先行研究が豊富な合金系よりも、複雑な結晶系を対象とするほうが有望であると判断したためである。また、コードの改良によりLi-Ge-P-S系に現れる錯体を含む構造の取扱いが可能になったことから、世界に先駆けてリチウムイオン電池材料の探索研究に着手した。前年度に引き続き大規模系の計算に向けて、古典分子動力学計算との組み合わせによるパラメータ調査も行っていくことが必要であると考えているが、この点については現状ではあまり進んでいない。来年度にこの部分については研究を進める予定である。このように、計画変更はあるものの必要最小限にとどめており、研究の進捗に応じて臨機応変に対応し、順調に研究を進めることができていると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
次年度も、平成25、6年度の研究計画を継続して、古典分子動力学と第一原理計算に対する進化的アルゴリズムのパラメータ調査を行う.その進行状況をみながら、本申請の最終段階として、実際の材料開発を見据えた系を設定して、その効果を検証していく。具体的には、新しい磁石材料として開発が期待されているFeをベースとしたFe-X 2元系で安定な物質を探索する。また、前年度に行ったLi-Ge-P-S系の電池材料の探索も引き続き行っていく。さらに近年、有機無機ハイブリッド型の結晶構造が太陽電池材料として注目を集めている。本研究手法では、錯体を含む結晶構造の探索も可能になっていることから、このような化合物も研究対象として物質探索研究を進めていきたいと考えている。 また本手法について先端的な研究を行っているUSPEXグループのworkshopが6月に開催されるのでそれに参加し、これまでに得られた研究成果について発表する予定である。同手法に習熟した研究者らと今後の研究について議論する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本申請で使用している計算機システムの消耗品(メモリ、HDD)代として計上していましたが、故障することなく安定して稼働しましたため、今年度は使用しませんでした。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度に引き続き、予期せぬ故障に対応して研究を円滑に進めることが遂行できるように、計算機システムの消耗品代として使用したいと考えています。
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