窒化物は、金属と窒素の結合を制御することで多様な物性が発現し、超伝導体、触媒材料、顔料や光学材料など社会に欠かすことのできない多数の機能性材料が開発・研究されている。しかし、これまでの窒化物の合成手法においては、大量のエネルギーやアンモニアガスを消費する必要があり、より省エネルギーで高効率な合成手法が求められている。そこで、本研究では、少ない環境負荷で窒化物材料合成を可能にする新規手法として300℃以下の低温での酸化物等の種々の化合物とナトリウムアミドとの反応を用いた窒化反応の調査と、合成した化合物の特性調査を行った。
オートクレーブ中で酸化銅とナトリウムアミドを120~240℃で加熱することによって窒化物の生成を試みた。合成温度を170℃、時間を60時間とすることで、ほぼ単相の窒化銅が生成した。それより低温では未反応の酸化銅が残り、高温では窒化銅の分解による銅金属や水酸化銅の生成が確認された。合成した窒化銅の粒径は数百ナノメートル、表面積は48 m2/gであった。光電子分光と熱分析の結果より、窒化物の表面は酸化物や水酸化物が生成していることが示唆された。光吸収から見積もったバンドギャップは約1.9 eVであり、可視光を吸収する半導体として期待できた。この合成反応において副生成物として水酸化ナトリウムの生成が予想され、熱力学的に安定な水酸化ナトリウムの大きな熱力学的な安定性が熱力学的駆動力となり、窒化反応が進んでいることが示唆された。よって、熱力学的に安定な酸化物等を出発試料としても、副生成物を考慮して合成経路を考えることで、熱力学的に不安定な窒化物等の非酸化物を低温で合成できることが明らかになった。
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