研究課題
若手研究(B)
カーボンナノチューブの内部空間を鋳型として利用することで、ジグザグあるいは直線状に硫黄原子が配列した硫黄の一次元結晶の合成に成功するとともに、硫黄の一次元結晶が常温・常圧で金属になることを見出した(T. Fujimori et al. Nature Commun. 4:2162 (2013).)。さらに本研究課題を推進するため、一次元硫黄結晶の結晶子サイズの最適化を目的として、1)硫黄ガスの吸着時間、2)ガス化温度、3)加熱後の冷却時間を主要パラメータとして合成方法を見直した。改良法を用いることで、従来法と比較して約2倍の結晶子サイズを有する硫黄の一次元結晶を得ることに成功した。改良法により合成した硫黄内包カーボンナノチューブは、未内包カーボンナノチューブよりも約10倍程度電気伝導性が向上することを見出した。一次元硫黄結晶は耐熱性が高く、バルク硫黄の沸点を凌駕する高温域においても、その一次元性を保持することがわかった。また、鋳型カーボンナノチューブの直径が小さいほど、硫黄-硫黄原子間距離が圧縮され、カーボンナノチューブの内部空間は疑似的な高圧空間としての作用があることを世界で初めて実証した。金属型カーボンナノチューブを用いた一次元硫黄結晶の合成実験は少量バッチで進めている。半導体型リッチ・カーボンナノチューブを用いた一次元硫黄結晶の合成には成功しており、電気伝導測定など各種キャラクタリゼーションを進めている。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の予想よりもはやく、一次元硫黄結晶の結晶サイズ向上が達成することができた。これにより、平成26年度に実施予定である、異なる凝集状態の硫黄内包カーボンナノチューブの電気伝導実験を進めることにつながった。少量バッチではあるが、金属型あるいは半導体型カーボンナノチューブを鋳型とした一次元硫黄結晶の合成にも成功している。以上、本研究課題は当初の計画以上に進展していると考えている。
(1) 金属化硫黄-金属型(or半導体型)カーボンナノチューブの合成:これまでよりも合成量を増加することで、各種キャラクタリゼーションを進める。(2) 硫黄内包カーボンナノチューブのバルク電気特性評価:従来通り、硫黄内包カーボンナノチューブのシート状凝集体を用いて電気伝導測定を進めるとともに、繊維状の導線を作製することで配向性をそろえ、超伝導を発現可能な凝集条件を探索する。(3) 硫黄内包カーボンナノチューブのナノ電気特性評価:平成25年度に引き続き、多探針プローブ法を活用してナノスケールの電気伝導特性を調べていく。(4)一次元硫黄結晶のみの電子物性評価:単一の硫黄内包カーボンナノチューブに電荷を注入して、光吸収/発光分光分析を行い、一次元硫黄結晶の電子状態を明らかにする。
平成25年度の本研究課題が、当初予定していたよりも安価な試薬費で進展することができたため、次年度使用額が生じた。平成26年度は、金属化硫黄‐金属型カーボンナノチューブおよび金属型硫黄‐半導体型カーボンナノチューブの大量合成をめざす。そのため、平成25年度に生じた次年度使用額は、合成のスケール・アップに必須となる消耗品類の購入費として使用する。具体的な消耗品費の明細を以下に示す。1.合成用試薬(カーボンナノチューブ、硫黄など)2.電気炉用消耗品やガラス器具類などの大量合成に必要な器具類
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Nature Communications
巻: 4 ページ: 1-8
10.1038/ncomms3162
炭素
巻: 260 ページ: 292-296
10.7209/tanso.2013.292
ACS Nano
巻: 7 ページ: 5607-5613
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