本研究ではこのwakeupについて、現象の解明から、条件の最適化を経て、圧電MEMS作製プロセスへの導入までを検討し、圧電薄膜の特性向上のための新たで普遍的な手法を確立することを目的とした。 テトラ組成、MPB組成いずれの場合も、パルスポーリングによって、DCポーリングよりも高い圧電定数が得られることが明らかになった。すなわち、パルスポーリングによって、処理時間を1秒以下と大幅に短縮しながら、高い圧電定数が得られることが明らかとなった。また、MPB組成については、テトラ組成の場合と異なりユニポーラパルスポーリングがwakeupさせるには必須であることが新たに見出された。 貫通エッチング前にポーリングした場合のd31は66-112pm/Vであるのに対して、プロセス完了後の場合は125-150pm/Vであった。貫通エッチング前のパルスポーリングは、基板が存在する状態のためにポーリング後はc軸配向性が大幅に向上した。しかしながら、貫通エッチングにより構造体がリリースされた際の応力開放により、c軸配向性がそこから低下した。これにより生じたドメイン構造の乱れが、圧電定数に影響を与えたと考えられる。以上の結果から、パルスポーリングによるwakeupはプロセス完了後に行う方が、高い圧電定数を得るのに有効であることが明らかになった。 今回確立したパルスポーリングによるwakeupは、共同研究企業のデバイス開発にすでに適用されており、それだけにとどまらず他の研究機関、民間企業が作製したPZT薄膜においてもその効果が確認されている。すなわち、申請時に宣言した「圧電薄膜の特性を向上させるための新たで普遍的な手法を確立する。」という目的はほぼ達成することができている。今後はPZT薄膜だけでなく、他の強誘電体薄膜にも本方法を適用し、圧電特性を向上させるプロセスとして広く普及していきたいと考えている。
|