研究課題/領域番号 |
25820341
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
鈴木 良郎 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (40631221)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 非破壊検査 / 繊維強化複合材料 / 定常熱伝導解析 |
研究実績の概要 |
本研究目的は,最新鋭の繊維強化複合材製の旅客機を短時間で検査する技術を確立することである.本技術が実現されれば機体を毎フライト後に検査できるようになるため,安全性を向上できる上,機体のさらなる軽量化にも繋がる.平成25年度以前に,損傷発生時の構造の電気抵抗の変化を計測することで,航空機のような大型構造から損傷発生が疑われる個所を瞬時に特定する「簡易検査技術」を確立していた.しかし,具体的な損傷の種類,寸法,位置を同定する「詳細検査」は未達成であった.そこで平成26年度は詳細検査を実現するため,研究実施計画に記載したように,複合材料を抵抗加熱しながら抵抗変化を計測し,健全部と損傷部における構造深部への伝熱の差異を分析することで,層間はく離という損傷の大きさ,深さを推定する手法の実現可能性を検証した.本手法では,はく離により構造が部分的に切断され,はく離面の直交方向の伝熱量が変化することを利用する. 提案する手法は,構造に電極を取り付けて,構造自体に電流を流して抵抗加熱する.26年度に行った実験により,構造と電極の界面における電気抵抗(接触電気抵抗)が問題となるほど大きいことがわかった.接触抵抗が大きいと,電極部の抵抗発熱量が,構造内部の抵抗発熱量に対して無視できなくなり,構造全体を一様に加熱できなくなる.一様加熱ができなければ,構造内の損傷の有無によって生じる温度変化を正しく計測することも困難となる. 26年度は,接触抵抗を減じる電極の設置方法を考案した.また,検査対象である複合材(薄い層を積み重ねた積層構造)を加熱する際,特定の層だけを通電して温める特殊な電極を考案した. 以上の成果により,構造をむらなく一様加熱する術と,特定の層のみ選択的に加熱する技術が完成し,提案する検査法の用途を拡げることに繋がった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに研究目的の一つである「電気抵抗変化法により複合材の層間はく離の大きさ,深さ位置を推定するため,構造を抵抗加熱しながら抵抗変化を計測し,健全部と損傷部における構造深部への伝熱の差異を比較する手法」を開発した. 本研究では,損傷の有無による温度の変化を検知することで検査を行うため,構造全体を一様に加熱する電極が必要となる.平成26年度は二つ目の研究目的である「構造の一様加熱を実現する電極」の開発に着手した.具体的には,電極部の界面接触抵抗を減じて,電極部の過分な抵抗発熱を抑え,一様加熱を達成する電極を考案した. また,検査対象である複合材CFRPが薄い層を積み重ねた積層構造であることを利用し,特定の層だけを通電して温める特殊な電極も合わせて考案した.本電極により各層を順次加熱して検査することが可能になり,どの層間が剥離しているか容易に特定できるようになった. 以上により,三つの研究目的のうち二つが達成されたため,おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
今後は「現在までの達成度」の項目で述べた積層構造の中の特定の層のみを抵抗加熱する特殊な電極を利用し,本損傷検査手法の有効性をさらに向上させたい.この電極は,26年度の研究過程で意図せず生まれたものであるが,特定の層のみ選択的に加熱できる点は,既存の他検査手法にないオリジナリティといえるものである.任意の層を加熱して損傷による伝熱への影響を検証できれば,どの層間が剥離しているか容易に推定できるため,これまでにない高精度の検査が可能になるものと期待できる. ただし,新たに考案したこの電極を,実際の損傷検査に有効に活用するためには,さまざまな試行錯誤(数値解析や実験)をして知見を蓄積する必要があると予想される. そこで,当初の27年度の研究目的であった「FEMおよび大電流印加試験によるシールドの耐雷機能の解析的・実験的評価」を延期(場合によっては中止)し,新電極を用いた損傷検査の研究を先に行いたいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
26年度購入予定だった繊維強化複合材CFRP(検査対象)は,在庫が十分にあるため,購入を取りやめた.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額と27年度分予算と合わせて温度計測カメラの購入に充てたい.本研究の最重要点は,損傷による温度変化の検知であるため,高感度かつ高解像度であり,動画も撮影可能な熱画像カメラを購入したい.
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