水素貯蔵材料であるパラジウム(Pd)金属を、格子定数が大きいAg表面にエピタキシャル成長させる事でPdの格子定数を変調させ、それに伴う水素吸蔵特性変化を調べることを目的として研究をスタートさせた。Pd膜中における水素吸蔵量の全量は水素昇温脱離測定から調べた。一方、反射高速電子線回折(RHEED)を測定する事から、表面のPd格子定数、水素吸蔵に格子定数変化を調べた。 Pd膜厚、水素暴露量を実験パラメータとした2種類の測定結果を比較すると、Pd膜中での水素濃度は均一でないことが分かった。水素濃度不均一性が、Pdの格子拡張が発生しているPd/Ag界面付近で起きているのか、あるいはPd表面で発生しているのかを調べる必要が出て来たため、Ag表面におけるPd成長様式をAFMとRHEEDまたPd/Ag界面を、TEMを用いた観察を行った。 Pdの支持体であるAgはSi(111)7x7表面に成長させたAg(111)表面を用いた。RHEED測定からPdは(111)成長し、5%の格子ミスマッチは10原子厚さ程度で緩和することが分かった。またAFM測定から、Pdは50nm程度四方のサイズのグレインで島状成長することが分かった。またPd/Ag界面をTEM観察した所、格子定数緩和はRHEED測定と一致し、合金化は発生していたとしても10原子厚さ以内であることが分かった。Ag(111)上におけるPdの成長過程に関するこれらの結果は、論文投稿予定である。 以上の結果から、水素吸蔵の不均一性は格子不整合が起きているPd/Ag界面ではなく、Pd表面で起きている可能性が濃厚になってきた。これまでの研究から、水素はPdの表面極近傍で高濃度な水素化物を作る可能性が示唆されており、今後、Pd表面での水素吸蔵分布に関して詳細を調べる必要があると考えている。
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