研究課題/領域番号 |
25820375
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
谷ノ内 勇樹 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (40644521)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | チタン / リサイクル / 塩化反応 / 反応媒体 |
研究概要 |
本研究では、金属チタン製造におけるチタンと塩素の損失を低減するため、製錬で生じる鉄塩化物廃棄物を用いたチタンスクラップのリサイクル法の確立を目指す。 塩化鉄によるチタンの塩化反応機構の解明と四塩化チタンを高速回収するシステムの実証のためには、蒸気圧の高い金属塩化物を扱った高温実験を行う必要がある。本年度では、まず始めに、塩化物の高温実験が可能な装置を独自に立ち上げた。本装置を使用し、塩化鉄(II)溶融塩による純チタンの棒材の塩化実験を行い、塩化されたチタンの割合を反応温度に対して定量的に示すことができた。反応温度を塩化鉄(II)の沸点直下の1200Kまで上げたとしても、チタンの塩化にともない還元析出する鉄がチタンの表面を強固に被覆するため、塩化反応の反応速度は時間とともに急激に低下することが明確となった。 そこで、チタンの塩化反応を高速化するため、酸化還元反応に関与する反応媒体を利用した新たなプロセスを考案した。考案したプロセスは、塩化鉄によるチタンの塩化反応を「溶融塩中の反応媒体によるチタンの塩化」と「塩化鉄による溶融塩中の反応媒体の再生」の2つに分けるというものである。溶融塩中で反応媒体として作用する塩化物は、チタンに対する塩化剤(酸化剤)となり、自身は低級塩化物へと還元される。生成した低級塩化物は、チタン表面に析出することなく、溶融塩中に溶解するため、塩化反応の進行を物理的に阻害しないと期待される。また、チタンの塩化反応によって生成した溶融塩中の低級塩化物は、塩化鉄(II)を用いて塩化(酸化)することによって、元の状態へと再生される。本年度では、各種熱力学的解析と基礎的な実験を行うことにより、例えば塩化サマリウムが反応媒体として機能することを示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度において、当初の予定通り、独自の高温実験装置の立ち上げとともに、本装置を使用して塩化鉄によるチタンの塩化反応機構の解明に向けた基礎的研究を実施することができた。反応界面の組織形成の詳細については調査の途中であるが、塩化速度の反応温度依存性を明確にすることができた。 さらに、本年度において、チタンの塩化リサイクルプロセスを効率化するための新たな手法として、溶融塩中の反応媒体を利用したプロセスを考案するとともに、基礎的な実験を通じてプロセスが原理的に実現可能であることを実証することができた。チタンスクラップから四塩化チタンを高速回収できる反応条件の提案は、次年度の課題として設定していたものであるため、大きな進展であると考える。 以上の理由により、当初の計画以上に進展していると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
新たに考案した反応媒体を利用する高速塩化プロセスについて、実験と熱力学的解析の両面から、より詳細な検討を行う。第1に、溶融塩中の塩化サマリウムを反応媒体として利用した塩化プロセスについて、反応温度、溶媒とする溶融塩を変化させて実験を行い、「反応媒体によるチタンの塩化反応」と「塩化鉄による反応媒体の再生反応」に関する反応解析を行う。例えば、X線回折や誘導プラズマ分光分析などによる反応生成物の定量同定や、電気化学測定による溶融塩中の状態のその場測定を実施する予定である。さらに、酸素、鉄、バナジウム、アルミニウムなどのチタンスクラップに混入すると予想される不純物元素について、プロセス中にどのような挙動を示すのか解明する。第2に、各種熱力学的解析を行い、塩化サマリウムに代わるより安価で手に入りやすい反応媒体の探索を進める。 本研究で得られた研究成果は論文として纏め、平成26年度に国内外の学術誌に投稿する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
高温塩化反応装置の立ち上げが当初の予定よりもスムーズに進行したため、各種消耗部品の購入費用を安く抑えることができた。本年度、米国で開催れた国際学会とワークショップにて研究成果を報告した。同じ国際会議とワークショップにおいて、本研究に関する発表とは別に、他の研究プロジェクトに関する成果発表もで行ったため、渡航費については別の予算により支払を行った。そのため、当初の予定より旅費の使用額が低くなり、次年度使用額が発生した。 平成25年度に生じた次年度使用額については、反応解析のための新たな手法・アイデアとして考えている特別な溶融塩電気化学測定装置の立ち上げ費用として使用する。 平成26年度分として請求した助成金については、当初の予定通り、高温塩化反応装置の保守・改造に必要な各種消耗品の購入費、試薬と高純度ガスの購入費、資源素材学会やTMSをはじめとする国内外での成果発表のための旅費、および学会誌への論文投稿費用として使用する予定である。
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