本研究は,ダイヤモンドライクカーボン(DLC)薄膜を分離活性層とする新規な分子ふるい膜の創出を目指すものである.本研究では,様々な構造を有する多孔質支持体をゾルゲル法で作製し,それらの多孔質支持体上にプラズマ化学気相蒸着(PECVD)法を用いてDLC薄膜の製膜を行うとともに,得られた膜の透過特性を評価し分子ふるい性を明らかにした. 平成25年度までに,ヘキサンを前駆体として用い,多孔質支持体のゾルゲル中間層の細孔径の影響,及び,PECVDを行う際のプラズマ出力の影響を検討し,平均細孔径が1 nm程度のシリカ-ジルコニア中間層を用い,高プラズマ出力条件で製膜を行うことにより,高い分子ふるい性を有するDLC膜の製膜が可能であることを明らかにした. 平成26年度は,新たな前駆体として,分子内に二重結合を有するプロピレンを前駆体として製膜を行った.分子内に二重結合を有するプロピレンを前駆体として用いた場合,プラズマ中での二重結合の開裂,及び,開裂部を起点として架橋反応が促進されることから,単結合のみからなる前駆体であるヘキサンを用いた場合に比べて,より緻密で強い分子ふるい性を示すDLC膜が得られることが確認された. また,PECVDで作製したDLC膜の透過性の更なる向上を目指して熱処理プロセスの有効性を検討した.不活性雰囲気下で熱処理を行った結果,Heなど分子径の小さいガスの透過率が分子性を保ったまま1-2桁程度向上可能であることが明らかとなった.これは,DLC薄膜に含まれるメチル基等の末端基が熱分解し,透過に有効な細孔が新たに生成したことによるものと考えられる.様々な温度で熱処理を行った結果,分離性を維持できるのは400度が上限で,それ以上の温度では熱分解が過剰に進行して分離性が急激に失われることが明らかとなった.本研究により,PECVDによるDLC分子ふるい膜の製膜法が確立された.
|