研究課題
若手研究(B)
肝臓などの大型の代謝系臓器を人工的に創製することができれば、移植医療のドナー不足の問題を解決でき、重篤な臓器疾患患者の救命に繋がる。その実現には、まず、1本1本の毛細血管が正確に100μmの間隔で配置された生体血管網を再現できる技術の確立が不可欠である。本研究では、極細の中空ゲルファイバーを利用することで、上述の生体血管網に極めて酷似した流路ネットワークならびにそれを利用した重厚三次元組織体創製技術の確立を目指している。本年度は以下の項目について検討を行った。1.血管内皮細胞の接着が可能な中空部内壁を有する中空ゲルファイバーの作製:従来のアルギン酸ゲルファイバーの細胞接着性は極めて低い。そこで、高い細胞接着性を有するゼラチンをファイバー内に組み込んだ。ファイバー内にゼラチンをただ添加しただけではファイバーからゼラチンが溶出してしまい、十分な細胞接着性を付与することはできなかった。そこで次に、ファイバー内のゼラチン分子を架橋した。なお、架橋剤としては細胞毒性が極めて低いものを使用した。その結果、中空部内壁への血管内皮細胞の接着が可能な中空ゲルファイバーを作製できた。2.肝癌細胞株をゲル部分に包括した中空ゲルファイバーの中空部への培地流通培養:肝癌細胞株をゲル部分に包括した中空ゲルファイバー200本の束を作製し、各ゲルファイバーの中空部に培地を流通させながら培養した。なお、中空部の開口率(中空部に培地が流れたファイバー本数×100 /全ファイバー本数)は95%以上であった。培地流通培養1週間後にファイバーを観察したところ、ゲル部分に包括した肝癌細胞株は増殖していた。また、培地中のアルブミン濃度の増加も確認できた。
2: おおむね順調に進展している
「研究実施計画」の内容を概ね達成できているため。
前年度は、肝癌細胞を封入した中空ゲルファイバーの束を作製し、それぞれのファイバーの中空部に培地を流通させることで肝臓様組織体の創製を図った。しかしながら、十分な細胞の増殖速度ならびに組織化を達成するには至らなかった。そこで、次年度はまず、中空形状を保ったままファイバーのゲル内部を液化することにより細胞の増殖に適した環境を作り、より短期間での肝臓様組織体の創製を図る。続いて、別途作製した、毛細血管よりも大きなサイズ(直径数mmから数cm)のバイオ人工血管と中空ゲルファイバーの束の両端をつなぐことで、毛細血管様流路が1本の動脈・静脈様人工血管に収束する流路ネットワークを作製する。最終的には、上記で構築した肝臓様組織体とラット肝不全モデルを体外循環回路でつなぎ、その治療効果を検証する。
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Artificial Cells, Nanomedicine and Biotechnology
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Journal of Chemical Engineering of Japan