本研究課題は,気液固三相反応に利用されるトリクルベッド反応器に周期的液供給変動操作を適用した際の成績改善に着目し,同原理に基づき細管内気液交互流であるテイラーフロー(スラグフロー)を応用した.固体触媒充填層に対して液供給を間欠的に行うと,触媒表面の液膜が周期的に薄くなり,律速段階である気体の液中物質移動を促進する.初年度はこの報告に基づき,アルミナ担持パラジウム触媒によるα‐メチルスチレン(AMS)の水素化を対象として,トリクルベッド反応器における周期的液供給変動操作の研究を行った.大幅に反応成績が向上するという結果が得られたものの,発熱反応により発生した熱が非液供給時に充填槽内に蓄積し,ホットスポットを形成することがわかった.また,流動状態が複雑なために,成績向上の要因特定が困難であった.次年度は,テイラーフローの実験を開始した.アルミニウム管の内壁を陽極酸化によって多孔質アルミナとし,パラジウムを担持させて反応器とした.水素とAMSを反応管内に供給し,テイラーフロー を発生させた.触媒内壁に視点を固定すると触媒表面に周期的液膜厚み変化が起こることから,定常操作でありながら変動効果が得られた.水素を飽和させたAMSのみを供給した条件に比較して,3倍程度の反応速度向上が得られた.最終年度は,テイラーフローにおける実験条件の最適化と効率向上の要因特定を目的として研究を行った.水素流量とAMS流量を変化させたところ,同じ気液スラグ長さ比の場合には線速度が大きいほど気体の溶解速度が大きくなったが,固体表面への拡散が律速であるため,みかけの反応速度に大きな変化は見られなかった.一方,気体流量の液体流量に対する比を大きくした際には,反応管内部での液膜の面積が向上し,みかけの反応速度は比例して増加した.液膜面積の増加がテイラーフローでの反応成績向上の主要因であることが明らかとなった.
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