ベンゼンからフェノールへの水酸化反応に代表される有機基質の酸化反応は、有機化学工業分野およびファインケミカル製造にとって非常に重要な反応プロセスのひとつである。フェノールはクメン法と呼ばれるベンゼンからの多段階プロセスで合成されることが知られているが、グリーンケミストリーの観点から合成プロセスの短縮が求められている。申請者は、水中でシクロヘキセンの選択的水酸化反応を一段階で進行する鉄錯体内包ゼオライト触媒の開発に成功した。本申請の研究では、これまでの成果をさらに発展させ、水および有機溶媒中でベンゼンからフェノールへの一段階合成プロセスを検討するとともに、前述の触媒のアルコール選択特異性の発現メカニズムを明らかにし、さらに高機能な選択水酸化反応を触媒する固体触媒の開発を目指して研究を遂行した。 鉄錯体内包ゼオライト触媒を用いて、水あるいは有機溶媒中におけるベンゼンの酸化反応を実施した。水の添加の有無に関わらず、目的のフェノールが主生成物として得られることがわかった。また、水とアセトニトリルの混合比を変えた溶媒を用いて検討を行ったところ、水とアセトニトリルの比が1:1のときに、最大の触媒活性を示した。水溶媒では、ベンゼンの分散、アセトニトリル溶媒では、過酸化水素の分散が問題であることから、混合溶媒となったことでそれぞれの溶媒の問題が相殺されたためであると考えられる。この反応条件下での、フェノールの選択率は90%以上、ベンゼン転化率は約10%であり、目標値には及ばないが、クメン法での多段階プロセスの収率(精製過程を除外して計算)に匹敵する値であることがわかった。また、鉄錯体内包ゼオライト触媒の鉄錯体の配位子を変えたり、ゼオライト部分のカチオンを交換することで、水溶媒中での反応活性を改善することに成功した。
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