研究課題/領域番号 |
25820402
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡野 憲司 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40623335)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | in vitro代謝工学 / 耐熱性酵素 / 非リン酸化Entner-Doudoroff経路 |
研究実績の概要 |
前年度までに非リン酸化Entner-Doudoroff(ED)経路を構成する7種の酵素および、乳酸デヒドロゲナーゼの計8種の酵素遺伝子を(超)好熱菌より取得し、Escherichia coli Rosetta2株に導入し、その活性を確認した。これらの株を熱処理し、宿主由来の酵素を失活させることで、耐熱性酵素のみが活性を有する酵素モジュールを得た。8種の酵素モジュール、グルコース、補酵素を加えることで、乳酸の生産に成功した。 今年度からは複数の酵素遺伝子を単一細胞内で発現する組換え体の作成を開始した。非リン酸化ED経路の酵素遺伝子の集積に先立ち、通常の解糖系であるEmbden-Meyerhoff(EM)経路をベースとしたキメラ解糖系酵素遺伝子の集積に取り組んだ。 経路を構築する9種の酵素遺伝子を、任意の3塩基突出末端を付加するためのベクターであるデスティネーションンベクターにクローニングした。DraIII制限酵素によって、各酵素遺伝子の断片化を行った後、枯草菌・大腸菌シャトルベクターとライゲーションし、枯草菌の形質転換を行うことで、9種の酵素遺伝子を集積したプラスミドを得た。 枯草菌よりプラスミドを抽出し、大腸菌に再導入を行った。本大腸菌から超音波破砕により無細胞抽出液を得て、70℃、30分の熱処理に供し、宿主由来のタンパク質を変性・除去を行い、耐熱性酵素カクテルを得た。9種の酵素について、それぞれ活性測定を行ったところ、全ての酵素活性を得ることができ、遺伝子集積に成功したと言える。 本組換え体より調整した酵素モジュールとグルコース、補酵素を加えることで、グルコースからのピルビン酸生産に成功した。更に乳酸デヒドロゲナーゼとカップリング反応を行うことで乳酸の生産にも成功し、複数耐熱性酵素を単一の大腸菌細胞に保持させた酵素モジュールの作成技術の開発に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は耐熱性酵素モジュールを用いた物質生産の生産性と経済性を向上させるために、(1)複数の耐熱性酵素を最適な量比で含有する酵素モジュールの調整技術、(2)酵素モジュール高密度充填型リアクターを用いた物質生産プロセスを開発することを目的としている。 昨年度までの研究で、モデル反応となる非リン酸化ED経路を用いたグルコースからの8段階キメラ型の乳酸生産経路を構成する遺伝子のクローニングを行い、これらの活性を確認した。更に、これらの酵素モジュールを混合することで、グルコースからの乳酸生産にも成功した。 今年度の研究では、これらの酵素を全てを単一細胞内で生産する技術の開発を行った。キメラ型のEM経路をモデルに技術開発を行ったところ、9種の耐熱性酵素遺伝子を単一細胞内で発現させることに成功した。更に発現量が低い、あるいは比活性の低い酵素をオペロン上の蒸留に配置することで、発現量をラフに調節できることを示すことができ、本システムが(1)でかかげる複数の耐熱性酵素を最適な量比で含有する酵素モジュールの調製技術として利用可能であることを示した。 本研究の主眼である非リン酸化型ED経路についても、遺伝子集積のための準備である、それぞれの遺伝子に任意の3塩基突出末端を付加するためのプラスミド、デスティネーションプラスミドの構築をすでに終えている。以上のように、本年度の目標を達成し、次年度に向けての研究の準備も着実に進行していることから、研究は順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は非リン酸化型ED経路の8種の酵素遺伝子の遺伝子集積を行う。これまでに得られた各酵素の比活性のデータに加え、各酵素遺伝子のmRNA発現量データを取得することで、所望の酵素活性を得るために必要なmRNA量を算出する。この算出結果に従って、mRNA量の必要量が多い酵素遺伝子をオペロン上流に配置する、人工オペロン構築を行う。 その後、構築した人工オペロンを有するプラスミドを大腸菌に導入し、8種の酵素全てが活性を有していることを確認する。またこの際にそれぞれの酵素遺伝子のmRNA発現量も測定することで、狙い通りの遺伝子発現プロファイルを得られているかを確認する。 その後、構築した8種の酵素を同時発現する大腸菌を熱処理に供することで酵素モジュールを得、グルコースからの乳酸生産を行い、その生産性の評価を行う。この際、特定の酵素について、極端に酵素活性が低いなどという問題点が生じた場合は、随時多コピー型のプラスミドの導入により補完を行うなどの対応を行う予定である。 最終的には調製した酵素モジュールを高密度にリアクターに充填することで、どの程度まで物質生産性を高めることができるかを評価する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
遺伝子集積について他大学にて技術指導を受けるための旅費を確保していたが、直接指導を仰ぐことなくメールベースでのコンタクトのみで、技術習得を行うことができたため、当初予定分より旅費が低くなった。
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次年度使用額の使用計画 |
一方で今年度は繰越金と当初予算を合わせることで、酵素モジュールを高密度に充填した物質生産実験の条件検討をより詳細に進めることが可能となる。従って、この点を重点的に研究を行う。
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