昨年度に行ったブームの取付角度を設けたブーム‐膜構造物の剛性取得実験では膜材の不足により,ブーム取付角によって変化する2本のブームのなす面積ごとに膜を作製した試料で実験を行う事ができなかった.これによりブーム取付角が増すごとに斜辺にたるみが生じてケーブルに余計な張力がかかり,剛性の向上がほぼケーブルに依存する結果が生じた.そこで本年度では実験ケース分の膜材を用意し,この点の改良を行って再度の実験を行ったところ,解析で予測されていた4degにおける飛躍的な剛性向上現象が確認できた.リンクルの観点からも4degは有利である事が予測されたため,本提案手法による最適設計の有効性が実証できたと考えられる.また,固有振動数比と有効面積比の間にはトレードオフの関係が存在する事が分かっていたが,10degを超えた範囲での剛性への影響は未検討であったためより詳しく調査したところ,18deg程度までの広域でこの関係性が崩れない事も分かった.さらに当初の計画と異なるが,さらなる実用性を考慮した設計検討を行うべく,その汎用的な構造要素として,宇宙利用だからこそ形状精度維持に信頼が置ける形状記憶合金(SMA)の導入を提案し,薄膜への搭載およびその形状維持性能の検討および構造の展開挙動およびリンクルを考慮した搭載位置の検討を行った.またブーム‐膜構造が太陽光発電やフェーズドアレイアンテナといった無線技術の搭載によって機能化する将来を見据え,通信アンテナ素子とSMA採用構造を同時に考慮する複合領域設計のための初期検討を行い,その実証モデルの提案および製作を行った.これにより本研究の背景を元に,これまでに例を見ないSMAを利用した構造および通信分野の複合領域設計手法として,新しい研究テーマの創成に繋げることができたと考える.
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