船舶のバラストタンクは厳しい腐食環境に曝されており、鋼材は厚い防食塗装で保護されている。この様な防食塗装の実環境における塗膜劣化及び塗膜下腐食の進行速度を把握することは、防食性能と経済性の向上につながると期待できる。一方で高温に曝されるバラストタンク天井部の塗膜劣化はその進行モデルを含めて完全には明らかとなっていない。本研究では、電気化学インピーダンス法(EIS)を用いて、腐食環境における塗装系のモニタリングを行う。それにより塗膜劣化及び塗膜下腐食の進行とEIS計測を関連付けられる知見を得ることが目的である。 まず、健全なバラストタンク塗装系のEIS特性の環境依存性について検討した。塗装系のインピーダンスは常温付近ではほぼ容量性挙動であったが、40℃以上では低周波数域に抵抗性挙動が現れた。また、浸漬する水の活量を変えて計測を行った結果、高温で現れる塗膜抵抗の値は、塗膜に浸透する水の量が大きいほど、低下するという結果を得た。 水溶液に浸漬した塗装系を温度サイクル環境に置き、劣化促進試験を行った。試験後塗膜にはフクレが発生し、塗膜下には腐食生成物が確認された。一方で塗膜の密着力は比較的高い値を維持しており、塗装系の劣化の初期段階と考えられた。試験中、EIS計測から塗膜容量の増加が見られ、塗膜抵抗は高温域でしか計測されなかったが試験の進行に伴い減少した。試験後の塗膜断面にはクラック状の隙間が見られた。EIS計測値の変化は温度サイクル環境中において塗膜が部分的に破壊され、水の浸入が促進されたことに対応すると考えられる。
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